田中 史生

経済学部
経済学科
教授

基本情報

田中 史生

専門分野 日本史、東洋史
研究テーマ 古代の日本と東アジアの交流史
最終学歴 國學院大學大学院文学研究科博士課程後期 修了
学位 博士(歴史学)
研究キーワード 日本史 東アジア交流史 古代史
渡来人 遣唐使 慧萼 円仁

大切なことは「どう変わるか」ということ。

私の学生時代はバブルの頃。日本の景気が良くなって、海外から多くの人が来日していました。それに、ちょうどその頃円高もすすんで海外旅行が急に身近なものとなって、若い世代の間でバックパッカーが流行しはじめました。私も例に漏れず、リュックを背負って世界に飛び出していたのです。それで、多くの海外の方と触れる機会があって、近代の移民政策の歴史なども学び始めました。それから、人の移動について歴史的にしっかりとやりたいと取り組んでいたところ、気づけば古代史まで辿り着いたんです。

私は古代の東アジアの交流について研究を進めていますが、東アジアという空間の範囲が一定だとは思っていません。地図上に線をひいて歴史空間を区切るのではなく、繋がりを探っていけば歴史はその外にどんどん広がっていくものです。日本から見た日本と、中国から見た日本でも、見え方が全然違います。ですから、研究では日中韓の研究者が一つのチームになって同じ文献を読み込んでいきます。こうして歴史資料を突き合わせながら、当時の「人と人との交流」を探っていきます。

一昔前、国際交流の先に理想的な未来があると信じられていました。けれど、グローバル化が進む中でむしろ格差が広がり、ナショナリズムが高揚してきている。歴史の中でこうした問題を見ていくと、古代から繰り返されてきた問題であるということがわかります。古代国家が成立するのもこうした状況があったからです。国際交流は、互いの壁を高くしてしまうこともあるんです。古代だけではなく、多くの時代で経験してきたことです。多くの人々は「現状が変わる」ことを恐れてしまいます。しかし、歴史家からみれば変わらない社会など存在しないのです。大切なことは「どう変わるか」ということ。歴史の中に、そのヒントがあるはずです。過去の問題を見ることで、今の私たちに跳ね返ってくる問題があるはずです。

主要業績

    【著書】
  • (単著)『国際交易と古代日本』吉川弘文館 2012年5月
  • (共著)『岩波講座 日本歴史 第1巻』岩波書店 2013年11月
  • (編著)『入唐僧恵蕚と東アジア 附恵蕚関連史料集』勉誠出版 2014年9月
  • 【論文】
  • (単著)「日本古代官印と隋唐官印」『国立歴史民俗博物館研究報告』第194集 2015年3月
  • (単著)「倭の五王の対外関係と支配体制」『島根県古代文化センター研究論集』第14集 2015年3月

事実と史実を区別することからはじめる。

歴史が得意だという学生によくよく話を聞いてみると、ただ教科書の暗記が得意だというケースがあります。しかし、私の授業では徹底的に教科書を批判するんです。最新の研究成果を並べて「君たちが学んだことと全然違うはずだ」と。多くの人が、過去は変わらないと信じています。けれど、過去のものだって変わっていきます。調べれば調べるほど、考えれば考えるほど過去は変わるものなのです。学生たちには「事実と史実を区別しなさい」と伝えています。例えば、古墳です。多くの状況証拠を解釈しながら、歴史家が誰々の墓だと考えてきたわけです。しかし、何かの発見があればこの史実は覆ります。けれど、事実は覆りません。史実には誰かの解釈が含まれていますが、事実はそうではありません。ですから、歴史を語っている人がどういう歴史観を持って語っているかに、アンテナを立てることも大切なんです。

また、私のゼミは教職課程に在籍している学生が多く所属しています。ですから、歴史教育などに興味を持っている学生も多い。こうした学生たちに、とにかく議論を繰り返してもらいます。議論の対象は、歴史に関わることだけではありません。現代的なナショナリズムの問題なども議論していきます。徹底的に議論を繰り返す中で、出席者が一定の問題意識まで辿り着きます。ここからの「学問」が重要なんです。問題意識を設定できていない人にとって、「学問」は何の役にも立ちません。問題意識を持って「知りたいな」と思った瞬間に自然と昇華されていきます。学問に触れた経験のある人は、社会に出たときにも問題意識を持っていたり、課題に対して分析をする方法を持っている人だと思います。過去を分析する歴史学のメソッドは、きっと現代社会でも役に立つはずです。

担当科目

  • 基礎ゼミナール
  • プレゼミナール
  • 演習(東アジア前近代史)
  • 歴史学
  • 日本史
  • 演習
  • 前近代史特殊講義
  • 全近代史特殊研究
  • 前近代の交易と東アジア

研究は趣味ではない。成果を伝えていくことが大切。

研究者にとって大事なことの一つは、一般の方に研究成果をわかりやすく伝えることだと思っています。科学研究費助成も含めて、私たちの研究には多くの税金が使われています。だからこそ、そうした取り組みは大切だと思うんです。研究は趣味ではないはずですから。子ども向けの歴史の本を書いたり、博物館の展示に協力したりすることも大切な活動だと思っています。その他にも、市民向け講座の講師を務めるなどしています。歴史に少しでも興味のある人に最新の情報を伝えていくことは、苦労も多いことではありますが研究者としての責務だと思っています。また、関東学院大学に着任して以来「神奈川地域史研究会」という地域史の研究会に加わり、研究室に事務局をおくなど、研究者だけではない市民の方も参加する研究会などで活動したりもしてきました。

最近、力を入れている活動の一つが地域の歴史的な資料をどう保存するかということ。東日本大震災がきっかけになって、多くの地域で資料保存の重要性が叫ばれています。東北での津波は、多くの大切なものを奪っていきました。そのなかには歴史的な資料もありました。その結果、大切な記憶や歴史文化を失った地域もあります。神奈川も海に面しています。資料の保存は個々の施設だけではなく、ネットワークを組んで多くの人々が協力しながら取り組む必要が出てきています。県内の関係者が協力して「神奈川地域資料保全ネットワーク」という団体を立ち上げました。今はどこにどんな資料があるのかを確認している段階。万が一災害が起こったときに、どの資料がどこにあるのかが整理されていないとそれらの救済にすら赴けません。全国的にも、こうした活動の機運が高まっています。そうした人々とも連携しながら、次世代に歴史的な資料を残すという役割を進めています。

取材・原稿作成 関東学院大学広報室