石井 穣

経済学部
経済学科
准教授

基本情報

石井 穣

専門分野 経済学史
研究テーマ 古典派経済学およびマルクスにおける賃金論、機械論、資本蓄積論
最終学歴 一橋大学大学院 経済学研究科博士課程修了
学位 博士(経済学)
研究キーワード 古典派経済学、リカードウ、マルクス、バートン、技術新婦、資本蓄積

過去から、現在の経済問題の解決の糸口を見つける。

私の研究は大学時代のゼミナール選考の際に、ある言葉に感銘を受けたことが出発点となっています。もともと私は、歴史に興味がありました。学生時代はちょうど1990年代半ばで、ソ連や東欧が解体し、社会の動きが甚だしい時期でした。そんな中、これからの社会はどうなっていくのだろうと思っていたんです。そのとき、ゼミナールを選ぶ紹介文で、「資本の運動をもとに、社会を捉える視点を学ぶ」という文字が飛び込んできました。何故か、このゼミナールに入れば社会の動きが分かるのではないかと感じ、それで決めました。そこから、マルクスの経済学や経済学史の世界に入っていきました。

経済学史とは、経済学という学問の歴史のことです。経済理論や思想の発展過程を研究しています。今日の問題を解く手がかりを過去の経済理論や思想に学ぶ学問といえるかもしれません。その中でも、私は19世紀イギリスの古典派経済学とマルクスの経済学を研究しています。19世紀イギリスは、産業革命があったことで知られていて、当時は新たな技術や機械の利用が人々の所得や雇用にどのような影響を及ぼすか、議論されていました。そのなかで私は、リカードウやマルサス、ジョン・バートンなどの経済学者の賃金論や機械論を研究してきました。彼らの賃金論は、経済発展にともなう賃金の水準の決定を、機械論は、生産への機械の利用が、賃金や雇用に及ぼす影響を論じています。
もちろんこれらの理論は、産業革命の時代のみのものではなく、長い歴史をもっています。それぞれの時代ごとで生産方法には変化があって、技術の発展により雇用や所得がどのような影響を受けるかということは、常に大きな関心事でした。産業革命後から今日にいたる時代は技術が急激に進歩し、新たな機械が次々と展開されてきています。現在であれば、自動運転やAI、ロボットなどによる新しい技術があり、これらが私たちの所得にどのような影響を及ぼすかという議論が生まれています。

こうした議論は一見すると、時代とともに大きく変わってきているようにみえますが、新しい技術の出現によるメリット、デメリットに関する基本的な枠組みは変わっていません。機械利用の影響については、しばしば機械によって人間の生活はより自由になり豊かになるというメリット、もう1つは、機械によって人間の立場が取ってかわられ所得や雇用が減るというデメリットが論じられてきました。これらは、今日の格差に関する論争、すなわち経済が発展すると、みんなが豊かになり生活が楽になるという説と、反対に経済が発展すればするほど格差が拡がるという説にも、もちろん通じています。

過去の議論は本質において現在に通じるところが多くあります。過去の経済学を研究する理由のひとつは、このような点に求められるのではないでしょうか。

 

主要業積

    (著書)
  • (単著)「ハイエクの景気循環論とリカードウ効果」『経済経営研究所年報』第38集 2016年
    (学術論文)
  • (単著)「ハイエクの景気循環論とリカードウ効果」『経済経営研究所年報』第38集 2016年
  • (単著)「ジョン・バートンにおける人口と貧困-『研究』(1820)を中心に-」『マルサス学会年報』第24号 2015年
  • (単著)「J.S.ミルおよびマルクスの機械論-補償説への考察とともに-」『経済経営研究所年報』第37集 2015年
  • (単著)「マルサスにおける機械導入と雇用」 『経済系』第262集 2015年
  • (単著)「相対的過剰人口論と利潤率の傾向的低下論-J.S.ミルとの比較をふまえて-」『経済経営研究所年報』第36集 2014年

“天職”となる仕事を見つけてほしい。

学生たちには、ぜひ社会で活躍をしてもらいたいと願っています。大学生にとって就職活動が大事な要素だとは思いますが、それにとらわれすぎるのもよくないでしょう。まずは大学生活を充実したものにして、さまざまな見聞を広めてもらいたいと思います。
私たちの世界は、社会的分業によって成り立っています。個々人が、それぞれに職業に携わることで社会は動いているのです。ですから、その仕組みを理解し、さまざまな職業を知った上で、自分なりに意味の見いだせる職業、就きたい仕事を探してゆくのがよいのではないでしょうか。そして仕事に就いたのならば、社会の一員として存分に活躍していただきたいです。

よく「天職」という言葉を聞きますよね。この意味について、一般には、自分の生まれもった性格や資質とマッチした職業のことと言われます。その一方で、一番長い期間続いた職業こそが「天職」だという考え方も耳にします。私は後者の考え方をとった方がよいように思います。長く続いた職業というのは、それなりに知識や経験が培われて、その会社ひいては社会に貢献していける職業ということではないでしょうか。地道に続ければ、人は必ず一定の水準に達します。そうして身についた知識や経験がその職業を「天職」にするのかもしれません。だから、待遇面も含め粘り強く続けられる仕事を見つけて、向上心を忘れず、社会に貢献する人材となってもらいたいですね。
粘り強さという意味では、知識全般に貪欲な学生を歓迎します。たくさんの学びのなかで、すぐには系統的に理解できない知識、または解答が見出せない問題もありますが、好奇心をもって学んでほしいと思います。それがいつか自分の頭の中でいろいろと結びつけられて、意味のあるものとして考えられるようになると思うのです。ちなみに私は学生時代には、難しい本を読むとき、分からないことは分からないなりに、仮説を立て読み進めるようにしていました。その本のその他の内容をその仮説に落とし込むことができればよし、うまく読む進められない場合は間違っていたのだと再考するというように、パズルを解くかのように学んでいました。
大学というところは、専門的な研究をしていきますが、このように勉強の仕方を学ぶ場でもあると思います。大学での学修によって、将来社会に出たときに、さまざまなものごとを関連付けて考えてゆくことができるのだと思います。だから、どんな知識だとしても粘り強く貪欲に学んでほしいと思います。

 

担当科目

  • 経済学史Ⅰ
  • 経済学史Ⅱ
  • 生産と分配の経済学史
  • 経済学入門
  • ゼミナール

大学の教育者として果たすべきことは。

経済学史は、経済学の古典を探求する学問ですから、明確な実用性を意識して研究される学問とは違い、何かを発見したなど、すぐに現状を良くするといった目に見える研究結果は少ないでしょう。しかし、物事を考えるときのベースとなる考察力は身につけられるものだと思います。

大学の教育者とは、学生が社会人になったときに、自分で物事を進んで身につける技を修得させ、そして、民主主義の担い手として育てることが役割ではないでしょうか。経済社会には、多くの利害関係が生まれます。どのような政策も、人々の立場の違いに応じて異なった影響を及ぼします。そのなかで社会として物事を決めていくには、人々の話し合いによるより他にありません。そこで、物事を秩序立てて考え、人々と議論をし、できるだけ多くの人々にとって納得のいく結果へと導く。もちろん少数者の意見を踏みにじるようなことがあってはいけません。そのようなことができる人材を育てることが社会に貢献することだと感じています。

古いものに立ち返ることは、基本的な視点を身につけることになります。データを分析するにあたっても、仮説を立てなければ読めません。けれど、この仮説は、基礎知識があるから組み立てられるものです。そのために、古典を探り、そこから様々な仮説を導きだし、現在や未来の問題に対処する、そういった考察力を身につけた人材を社会に輩出したいと願います。

取材・原稿作成 関東学院大学広報課