山田 留里子

人間共生学部
コミュニケーション学科
教授

基本情報

専門分野 現代中国語文法、中国語教育、日中対照言語学
研究テーマ 中国語におけるICT活用教育方法研究
中日翻訳理論
最終学歴 広島大学大学院文学研究科博士後期課程 修了
学位 博士(文学)
研究キーワード 言語学、中国語、中国語教育、翻訳、中国語文法

噂を聞いて出席した授業で、恩師と呼べる人に出会った

大学院生の時です。中国の大学院では、どのような授業が行われているのか見てみたいと、ゴールデンウィークを利用して北京大学を訪ねました。正式な留学の手続きをとったわけではないので、実はこっそりと、教室の空いている席を必死で探し出し、やっと座ることができました。授業がはじまる前から、教室に入りきれないくらいの学生(廊下の窓からも顔を出している学生も)や外国からの研究者で、教室はほとんど満席だったのです。先生が教室の扉を開けた途端に、教室から盛大な拍手が沸き起こりました。私は生まれてはじめて見かけた光景に、今から始まろうとする授業にワクワクしていました。教壇に立たれた先生は、非常に迫力のある声で、全身全霊で、先生が現在研究なさっている世界最先端の内容を、一人一人の学生たちに語りかけていくように、授業は進められていきました。そんな授業にすっかり魅了された私は、先生に質問をしてしまいました。質問内容は、授業でお話しされていた中国語の形容詞についてです。私の質問に先生は、なんと「私には、今は、わかりません」と答えられたのです。学生に対し、「分からない」と素直に真摯に、回答する先生に出会ったのは生まれてはじめてです。その姿に驚き感動してしまいました。その後、間髪をいれずに、先生は「しかし、その質問は大変に意味のある問題ですから、ぜひ、あなた自身がそれについて深く学んでほしい」と言葉を続けてくださいました。私はこの質問をきっかけに、私の恩師となった、中国語研究の世界的権威、北京大学中文系教授の陸倹明先生と出会うことができたのです。帰国後は、ためらうこともなく、大学院を休学し、正式に北京大学へ留学することに決めたのです。

これが私と北京大学との深き縁の始まりです。

さて、私の研究は、中国語と日本語を文法的に対照し、よりよい中国語翻訳や中国語教育の方法を探っていくことです。中国語というのは、動詞がよく活躍する言語だといわれます。例えば、日本語で「私は牛肉が好きです」と言えば、多くの日本語話者は「牛肉を食べることが好き」だと単純に理解することができます。しかし、中国語では、言語環境が整わなければ、「私は牛肉を食べるのが好きです」(我喜欢牛肉)と動詞も用いて表現しなければ、「牛肉そのものが好きです」というニュアンスになり、話し手の意図が伝わりません。つまり、こういう規則を知っておかなければ、中国語話者とのコミュニケーションがうまくとれないこともあるのです。

こうした中国語と日本語の相違について、一つ一つわかりやすく説明することで、日本で中国語を学ぶ人たちのへお手伝いをしていきたいと思っています。ただ、文法などの「語学」を学ぶことだけでは、コミュニケーションロスがなくなるかといえば、そうとは言い切れません。例えば、日本人は、以前に、御馳走して頂いた方に、別の機会にまたお会いした時には、一般的に「先日は、ありがとうございました」などと、お礼の言葉を伝える習慣がありますが、中国人にこの言葉を使うとしたら、「どうして、またお礼を言うのだろう」と不思議に思われるかもしれません。どうしてでしょうか。中国では、御馳走になった時に、一度心を込めてお礼を述べればそれで十分で、またあらためてお礼を述べることはしないのです。もし、お礼を何度も伝えてしまえば、「また御馳走してほしいのかな」と思われるかもしれません。ここに、文法だけでは表現できない発話意図の取り違いがありますね。日本には、漢字やお茶に代表されるように、中国の文化がたくさん伝わってきていますが、習慣の面で、中国との間に大きな違いがたくさんあるからなのです。

お互いに相手を尊敬し、異なる他者から学ぼうとする姿勢から生まれる、開かれた心、開かれた対話がなければ、偏見や差別が引き起こされてしまいます。 異なる文明を融合し、調和させる新たな価値観の創造の要件を「人間共生」の視点から求めていきたいと考えています。

主要業績

    【著書】
  • (共著・翻訳)『中国語名詞性フレーズの類型学的研究』日中言語文化社 2016年
  • (共著)『ストーリーで学ぶビジネス中国語』駿河台出版社 2016年
  • (共著)『歌で覚える中国語』駿河台出版社 2016年
    【学術論文】
  • (単著)「種まく人の祈りを込めて―『平和の価値』の共創と共生―」『―新『長崎学』への出発―創立記念誌』長崎学院創立70周年記念誌編集委員会 2015年
  • (共著)「ICT活用による中国語文法授業事例~体験型音楽語学教材の試用~」『大学教育と情報』JUCE journal 2015年度No.1 2015年

ちょっとした勇気が、人生を左右することもある

中国語に関連する科目や中国語圏の生活や文化を紹介する科目などを担当しています。特に中国語の授業では、学生たちにさまざまな方法を工夫しながら教えていますが、近年取り入れているのは「音楽」を利用した学修方法です。中国語にメロディをつけて、歌いながら覚えることで、記憶への定着を促していきます。文字や言葉で覚えても、なかなか記憶には定着しません。しかし、歌を歌うという体験を通じて学修することで、同じ内容でも忘れにくくなるということを実体験とともに感じています。特に、初級中国語会話においてはその傾向は強まります。学生たちは、はじめは驚くこともあると思いますが、歌を通じて言葉を学ぶことで、より効果的な学修を進めてほしいと思っています。

学生たちが、中国への理解や関心を深めていってくれればうれしいですね。ただ、中国への理解を深めるには、単に言葉を学ぶことだけでは不十分です。繰り返しになりますが、互いの文化や習慣が違っていることを正しく理解する必要があります。ですから、私は語学の科目であっても、できるだけ中国の文化や歴史、習慣を伝える努力もしています。

違いがあることは、当たり前のことなのです。日本人同士であっても、それぞれが育ってきた環境に応じて考え方や習慣は異なるはずです。ともに学んだ学生たちには、自分と他者が違うということに、自分と他者の間にはまず「異文化がある」、それが当たり前だと思える人に育ってほしいと願っています。 そして、少しの勇気を持てる人になってほしいのです。私も、あの北京大学の授業で、少しの勇気を出して先生に質問をしたということで、生涯、尊敬できる恩師と出会えました。また、その恩師を通じて出会った人たちとの交流が、今現在も続いています。あの時の出会いの縁が、今に続いているのです。ですから、学生たちにも、少し勇気を出して、誰かに何かを、尋ねることのできる人になってほしい。世界と繋がり、グローバルな社会を共生・共創していくために、自分の価値観を見つめなおし、グローバルなコミュニティーを築き生きていくために。

そして、それは、将来の自分の生き方を決める大きなチャンスともなるでしょう。

担当科目

  • 地域研究実習
  • 教養ゼミナール
  • 基礎ゼミナール
  • ゼミナール
  • 共生とコミュニケーション
  • コミュニケーション入門
  • ビジネス中国語
  • 中国語圏の生活と文化
  • 人間環境論入門
  • 人間と社会
  • KGUキャリアデザイン入門
  • 国際コミュニケーション

国際港都・横浜だからこそできる、日中交流の方法を探っていく

中国語を教え、学ぶ方たちの協力を得ながら、長年にわたって中国語劇や中国語弁論大会を開催してきました。社会人も含めての誰でも参加できる大会で、運営・弁論指導を行ってきました。中国語の発音指導は当然ですが、まず学生自身が弁論大会で、「何を伝えたいのか」を一人一人がしっかり心に置くことが大事です。そのために、社会性のあるテーマをもとに弁論内容を組み立て、学生同士がまず、表現や論理的な面で評価し合います。

相手の話に耳を傾けること自体は、多様な考え方を取り入れ、自身を変革・創造できる大きなチャンスでもあります。また、社会性のあるテーマを設定するのは、異なる世界観や世界が抱える諸問題へアプローチしていくことができ、平和教育へと繋がるからでもあります。 ここで一番大切なのは、学生自身、実際の体験を通して得た感動や決意を伝えることでしょう。言葉にできないものを、まず肌で感じることが大事なのです。現実のリアルな体験に触れることで、お互いの相違も乗り越えられると思うからです。

以前勤務していた大学では、学生は、弁論大会に出場するのはもちろんのこと、弁論大会の運営にも全員が関わってきました。回数を重ねるなかで地元の自治体とも協力して、弁論大会をきっかけにした国際交流の取り組みにも発展させることができました。このような取り組みを、ここ横浜でもいつか、ぜひやってみたいと思っています。

海港の地である横浜は日本最大の“中華街”があることに象徴されるように、中国にルーツを持つ人々が数多く暮らしいます。そんな素敵な街・横浜でしかできないような国際交流のあり方を学生とともに考えていけたら嬉しいです。

今年度(2016年4月)、関東学院大学に着任したばかりで日は浅いですが、行政や地域と連携した日中間の交流の方法を模索していきたいです。平和と文化交流は、深い次元で同じであり、現実の活発な交流こそが、平和への一歩でもあると信じています。

取材・原稿作成 関東学院大学広報課