松下 倫子

人間共生学部
コミュニケーション学科
教授

基本情報

専門分野 計量経済学、経営情報学
研究テーマ 発展途上国におけるICT産業を起爆剤にした経済開発について
定性的手法による情報システムの評価
最終学歴 中央大学大学院経済学研究科博士後期課程 単位取得退学
学位 経済学修士
研究キーワード 経営情報、IT産業、発展途上国、
経済開発、ICT4D、IoT、ネパール

ネパールにIT産業は根付くのか?

父は、中小企業の工場で染色の仕事をしていました。景気の波の影響を受けて、勤めている工場を転々とすることもありました。父は、仕事では苦労をしていましたね。対して、母は銀行に勤めていて、子どもながらに「安定している」と思っていました。そんな両親の姿を見ながら、大企業は安泰なのに、中小企業がさまざまな苦労をしている様子を肌で感じて、「産業構造の歪み」を体感していたんです。そんな問題意識を持つなかで、大学は経済学部に進学しました。そこで出会ったのがコンピュータソフトウェアに関するセミナー。これはおもしろいなと思い、いつの間にかコンピュータに関連した産業や経営への応用についてのめり込んでいました。

企業がどのようにコンピュータを活用するかについて研究をしていた頃に、たまたまネパールを訪ねる機会がありました。ネパールは山岳地帯にあり、観光業以外に突出して発達した産業はありません。国民の7割以上が、1日2ドル以下で暮らす貧困層とされている国。そこで感じたのは、産業を起こし、国民生活を向上させるために、先進国の論理や過去の経験をそのまま持ってきたとしても通用しないということでした。日本は、重工業が基幹となって戦後の高度経済成長を達成しました。しかし、ネパールで同じことができるかといえば、非常に困難なことです。山岳地帯ですから、資源を輸入するのに不可欠な大規模な港湾施設はありませんし、大規模な工場をつくるためには資本の問題もあります。そこで、コンピュータ関連のソフト産業の育成が必要であると考えるようになりました。

現地でのインタビュー調査や、アジアの他の国との比較研究を進めるなかで、いくつかの事実が見えてきました。ネパールでも、複数のIT企業が日本などからの発注を受けて、ビジネスをしています。一方で、欧米の企業からの仕事はなかなか根付きません。というのも、欧米社会ではビジネスの成果こそが重要視されます。しかし、ネパールでは人的コネクションがより重要視されます。そういう意味で、少し気長に付き合える意思を持った日本企業の経営者の方が、この国のビジネスに向いているのかもしれません。

しかしながら、ネパールの政治が安定していないことにより、国民は明日の生活に不安を感じています。そのため、長期的視野に立った産業育成の意識が乏しいとも言えます。また、識字率は近隣諸国と比べても低い状況がつづいています。課題はたくさんありますが、この国の新しいビジネスが芽生える何かお手伝いができないかと、思いを巡らせています。

主要業績

    【学術論文】
  • (単著)「PROBABILITY AND PROBLEMS OF ICT OUTSOURCING FROM ADVANCED NATIONS TO THE POOREST COUNTRY: THE CASE OF NEPAL」Conference proceedings of ETHICOMP2011, 2011年
  • (単著)「CO-OPERATION AND ETHICAL PROBLEMS IN SOFTWARE INDUSTRIES: THE CASES OF VIETNAM AND NEPAL」ETHICOMP 2013 Conference Proceedings, 2013年
  • (単著)「Necessity of ethical education in software industries: the case of Vietnam and Nepal」Proceedings of the 6th JPAIS/JASMIN International Meeting2013, 2013年

チャンレンジできる下地を学生時代に身につけてほしい

私たちの社会は、コンピュータがなければ成立しないと言っても過言ではない状況です。企業や組織でも、必ず何らかのシステムやアプリケーションを利用しています。例えば、病院では医療情報をデータベース化したり、観光産業ではWi-Fiを観光客向けに開放したりするなどしています。こうした状況をまずは知ってもらいたいと、授業では経済紙などに掲載された企業やIT技術に関するニュースをできるだけ学生たちに知らせ、社会の潮流や最新の情報を身近に感じてもらうようにしています。

学生たちには、コンピュータに関する知識はもちろんですが、社会そのものにも関心を持ってほしいと思っています。そのためにも、学生の間に本を読む習慣を身につけてほしいと願っています。インターネットから、さまざまな知識や情報を得ることは可能です。しかし、まとまった知識を体系的に理解するために、いまだに書籍を読むということの優位性は揺らいでいないと思います。何も、研究書や専門書を丸暗記してほしいわけではありませんが、本を読む習慣を身につけてほしいのです。

そして、学生たちには自分の仕事を楽しめる大人に成長してほしいと願っています。楽しみながら働いている人は、自分の仕事をさらにおもしろくしようとチャレンジができる人ではないでしょうか?もちろん、授業を真面目に受けることは大切ですが、それに加えてサークルやクラブでの活動、あるいは学外でのさまざまな取り組みに積極的に参加してほしいと思っています。それらに参加することを通じて、社会人になってからチャレンジできる下地を大学時代に形成してほしいと思っています。

担当科目(2016年度)

  • 経営情報システム論
  • 社会情報論
  • 統計シミュレーション
  • 数値データ処理
  • コンピュータ・リテラシー
  • 人間共生論入門
  • コミュニケーション入門
  • メディア・コミュニケーション
  • ビジネス・キャリア演習
  • 基礎ゼミナール
  • ゼミナール
  • 教養ゼミナール

ネパールの産業振興に寄与できれば

ネパールの産業振興に関わる研究を長年続けてきましたが、いつかきちんとネパールのためになる提言ができればと思っています。ただ、目的はネパールだけではありません。先進国は、さまざまな形で発展途上国を支援してきました。医療や保健分野の支援はもちろん必要です。ただ、「施す」だけの支援で終わってはいけないと思っています。

ネパールだけでなく、アフリカ諸国をはじめとした“最貧国”と呼ばれる国々では、人々の生活基盤を守るための産業が必要です。産業を起こすことは、直接的な支援ではないかもしれませんが、最も必要なことだと思っています。今は、IT産業をこうした国に普及するための研究を重ねてきましたが、IT産業に限らず何らかの新分野のビジネスを展開していく必要があります。新たな産業を開拓するための仕組みづくりに、何らかの形で貢献できればと考えています。

取材・原稿作成 関東学院大学広報課