中野 幸夫

理工学部
理工学科電気学系
教授

基本情報

専門分野 電力工学、電気電子計測、電気利用
研究テーマ スマートグリッド研究
スマートメータの活用研究
省エネルギー・節電研究
最終学歴 名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程 修了
学位 博士(工学)
研究キーワード スマートメータ、高齢者見守りシステム、高調波、電気の使用状況の見える化、省エネルギー・節電、スマートグリッド

スマートメータを活用した独居高齢者見守りシステムの開発

 中学生のときにアマチュア無線の免許をとり、高校時代は手作りのアンテナで海外とも交信していました。また、部品を買ってきて真空管ラジオをつくることも好きでした。そんな私にとって、大学進学にあたって工学部を選択することは自然なことでした。エンジニアになれば、喰うに困るようなことはないだろうという気持ちでした。

 大学院を修了すると、電力中央研究所という民間の研究機関に就職しました。ここで、研究者としてさまざまな経験を積みました。例えば、100万ボルトの送電線ですが、様々な制限条件をクリアした上で、いかに送電線をコンパクトにつくるかという研究です。これは、遠方の発電所から電力を運ぶ大容量の送電線をいかに小さく、軽くすることができるかということです。送電線に使われる電線や碍子(がいし)の数を減らすことができれば、それを支える鉄塔の強度も下げることができます。つまり、必要とされる鉄骨の量やコンクリートの量も減らすことができ、全体的なコストダウンが達成できるのです。この研究成果は実際の送電線の建設に用いられています。

 また、赤外線加熱を普及させるために、赤外線の発生源からどのような赤外線が発生しているかを測定する研究なども行いました。研究成果は業界団体等を通じて、メーカーにも提供されています。開発した赤外線の測定法はJIS規格として採用されています。

 電力中央研究所時代から現在のテーマにつながる研究も進めてきました。その一つが、省エネルギーのための「電気の使用状況の見える化」に関する研究です。家庭や店舗に設置されている電気機器は、機器それぞれが異なるパターンの高調波と呼ばれる電流の波を発生します。この高調波のパターンを測定・分析することで、電気機器個々の使用状況がわかり、省エネルギーのための対策を練ることができます。しかし、この高調波を利用する方法は、電気機器それぞれの高調波を調べる必要がある上、コストがかかることもあって、一般に普及させるまでには至りませんでした。しかし、この発想を簡略化させたことで、独居高齢者見守りシステムの実用化を果たしました。家庭の分電盤に電流計測器を取り付け、電流の変化の大きさや頻度を分析することで、人の住まい方がわかります。これを独居高齢者の見守りシステムとして活用するのです。数年前に、東京都狛江市と共同で、このシステムの実証実験を実施し、その有効性を検証しています。この技術はある企業に供与され、現在、東京都荒川区の約500人の独居高齢者を実際に見守っています。今は、このシステムの全国展開を探っています。

 一方、従来の電気機械式の電気メータ(電力量計)を、通信機能をもたせたデジタル式のスマートメータに取り替える施策を、電力会社が政府の後押しを得て進めています。2024年度末までには、全国のメータがこのスマートメータに置き替えられる予定です。先ほど説明した見守りシステムの機能を、このスマートメータに付加することで、社会インフラとしての高齢者見守りシステムを安価かつ効率的に構築できると考えています。実用化に向けては、電力会社や行政、ならびに地域の協力が必要で、課題は山積していますが、より効率的なシステムの構築方法を探っているところです。

主要業績

    【著書】
  • (共著)『エレクトロヒートハンドブック』オーム社 2011年
  • (共著)『電気工学ハンドブック(第7版)』オーム社 2013年
  • (共著)『図説 建築設備』学芸出版社 2016年
    【学術論文】
  • (共著)「居住者の選好を考慮した省エネルギー方策選択支援ツールの開発」エネルギー・資源学会、研究論文、Vol.32、No.5 2011年
  • (共著)「A Support Tool for Ranking Energy-Saving Activities in Office Buildings using Analytic Hierarchy Process(階層分析法を用いたオフィスビル向け省エネ方策選択支援ツールの開発)」Journal of Japanese Symposium on The Analytic Hierarchy Process, No.3 2012年
  • (共著)「電気の使い方から独居高齢者を見守るシステム その1:世帯の総負荷電流から居住者による電気機器の直接操作の有無を推定する方法」電気学会論文誌C、135巻5号 2015年
  • (共著)「電気の使い方から独居高齢者を見守るシステム その2:世帯の総負荷電流の平均値を用いる方法」電気学会論文誌C 136巻6号 2016年
    【受賞】
  • 電気学会 電気学術振興賞 進歩賞 2013年
  • 電気学会 電気学術振興賞 論文賞 2016年

学生は「一緒に働く仲間」

 電力中央研究所に就職する頃には、いつかは次の世代の育成に携わりたいと漠然と考えていました。年齢を重ねるにつれ、徐々にその思いが強まり、縁あって関東学院大学で教壇に立つことになりました。

 研究室の学生たちは、スマートメータの活用や高調波の応用などをテーマに卒業研究に取り組んでいます。基本的には、私の研究テーマを学生とともに考えている状況です。研究室で行っている実験や分析のいくつかは、大学の資金だけではなく、外部の企業や行政から資金を提供してもらって進めています。資金提供者や社会のためにも、成果を出さなければいけません。だからこそ、口も出します。学生に「教育をしている」というよりも、学生と「一緒に働いている」という感覚のほうが近いですね。強いて言えば「仕事仲間」といった感じで接しています。学生たちにも、研究室での取り組みを漫然と進めるのではなく、資金を得て進めている仕事という感覚を持っていてもらいたいと思っています。そちらのほうが、より真剣に取り組めるし、卒業研究のレベルも向上します。

 ここで学んだことを生かして、学生たちには自立した社会人に成長してほしいと思っています。自分の仕事を自分できちんとこなせる人です。しかし、これは社会に出てすぐにできることではありません。自分自身や前職での同僚たちの姿を見ても、一人立ちするには少なくとも10年はかかると思っています。まずは、10年間、一生懸命、がんばってほしいですね。10年もすると、自分の仕事は自分でできるようになっているでしょうし、部下も少なからずいるはずです。

 そういう社会人に成長するためにも、自発的に疑問を持って、その疑問をどうすべきか常に考えている人であってほしいですね。わからないことがあれば、わかる人にすぐ相談することも大切です。「社会に出たら『ホウレンソウ(報告・連絡・相談)』が大切」と、学生たちには日頃から伝えていますし、研究室でもそれを実践するよう指導しています。わからないことをそのままにするのではなく、自分なりに考えたり、周囲の人に相談して解決への糸口を探そうとする人こそ、自立した社会人に成長していけるはずです。

担当科目

  • 電力発生工学
  • 送配電工学
  • 電気法規・施設管理
  • スマートグリッド工学特論
  • 電気エネルギー工学研究

工学は実学。「人の役に立つ」、「社会の役に立つ」研究を

 研究を進めているスマートメータを活用した高齢者見守りシステムも、実用化に向けて、さまざまな施策の考案や提案を進めているところです。わが国は、世界のどこの国も経験したことのない高齢化社会に突入し、一人暮らしの高齢者が増え、生活に不安を感じている人が多くいる状況です。このシステムを社会インフラとして実用化することで、高齢化にともなう社会的な不安を少しでも軽減できればと考えています。

 「工学」は「実学」です。純粋な自然科学の分野で研究に取り組むのとは違い、考えていることを形にして、サービスや製品として人々が利用し、暮らしの向上につなげてもらわなければ、「実学」と言えません。もちろん、研究を進める中で、思い通りになることばかりではありませんが、「人の役に立つ」、「社会の役に立つ」ということを意識して取り組まなければ、その研究に価値を見出すことはできません。おかげさまで、私が電力中央研究所時代に取り組んだ複数の研究は、電力会社やメーカーなど、社会の中で利用してもらっています。所属が研究機関から大学に変わったとしても、そのスタンスに変わりはありません。学生たちとともに取り組んでいるスマートメータを活用した高齢者見守りシステムも、社会で利用してもらえるよう努力を重ねているところです。

取材・原稿作成 関東学院大学広報課