規矩 大義

理工学部
理工学科土木学系
教授

基本情報

専門分野 地盤工学、地盤防災工学
研究テーマ 地震時における地盤の液状化に関する研究
地盤と土構造物に関する災害予測と対策技術
最終学歴 九州工業大学大学院工学研究科博士後期課程 修了
学位 博士(工学)
研究キーワード 地盤工学、液状化現象、土質、防災、減災

より効率的で、より効果的な地盤調査を進めるために

 理系でも、何らかの形で人に関わる仕事がしたかったんです。高校生の自分には、電気や化学の分野のエンジニアが、チームで仕事をするという姿が想像できなかったんですね。けれど、鉄道や空港、トンネルや橋といった大規模な社会インフラに携わる土木は、大勢の人と関わり合いながら仕事ができる分野だと思ったんです。

 大学に入った当時、研究者になろうとは少しも思っていませんでしたし、大学院に進学することすら考えていませんでした。学部4年生の時に、研究室に配属されて恩師に出会ったんです。恩師は、大規模地震の際に、砂地盤などの土地が液体化してしまう「液状化現象」の第一人者でした。この液状化現象に出会って思いが変わりました。これをさらに学びたいという欲求が生まれ、恩師とともにさらに研究を進めるため大学院に進学しました。

 液状化現象のメカニズムは、この30年で概ね解明されてきました。さらに、その対策もいくつかの方法が提唱されています。しかし、強い地盤だと考えられていた地域でも、局所的に液状化が発生してしまうケースがあります。小さな綻びが大きな被害に結びつくことは何度も経験して来ました。地盤全体にとっては局所的でも、そこに存在する構造物や、そこに居を構える市民の皆さんにとっては壊滅的な被害でもあるのです。こうした局所的な被害を予測するための調査方法は、現時点では十分に確立されていません。

 地盤調査では通常、ボーリングと呼ばれる方法が使われます。地盤がどんな構造をしているか調べる方法です。これには、大型の機材が必要で、決して費用も安くありません。大がかりな調査ですから、道路や堤防といった総延長の長い構造物では、部分的な調査で終わってしまうんです。これに替わる、部分的ではなく、より広い範囲で調査し、なおかつ低コストな調査方法が求められています。その一つが、私たちが研究を進めている「サウンディング」という方法です。音響、探りを入れるという意味の単語ですが、まさに地盤が発する信号に耳を澄ますことが大切です。現在、取り組んでいる研究では、先端に複数のセンサーを取り付けた金属製の棒状のロッドを地面に打ち込みながら、センサーからの情報を解析することで、その層がどんな種類の粘土や砂で構成されているのか、液状化に対する危険性はどの程度かを即座に判定するものです。この方法は、機材も小型で済みますし、より多くの地点で調査をすることも可能です。さらには、コストも抑えられます。このサウンディング手法を、従来型の調査法と組み合わせて、より詳細・高精度で、かつ経済的な地盤の耐震診断法として確立させ、普及させていくための研究を進めています。

 土木の分野は、その多くが公共事業です。市民一人ひとりの税金が投入されています。日本が高度経済成長時代には、日本中の隅々まで社会インフラを行き届かせるために多くの税金が投入されました。けれど、時代が変わり、私有財産だけでなく公共財産である社会インフラでも、費用対効果を勘案することや、実施した事業に対する効果の程度を判定することが、強く求められるようになってきました。そのためにも、より効率的で高い効果を得るための調査方法の開発を私たち研究者が進めていかなければなりません。

主要業績

    【著書】
  • (共著)『基礎から学ぶ土質工学』朝倉書店 2012年
    【学術論文】
  • (共著)「Liquefaction characteristic of alluvial soil distributed at Sawara dry riverbed in Chiba prefecture」Japanese Geotechnical Society Special Publication 2(22) 2016年
  • (共著)「サンプリングの泣き所も乱れの少ない方法で採取 :GSサンプリング」地盤工学会誌,63巻,4号 2015年
  • (共著)「浅層盤状改良工法による戸建て住宅の液状化被害軽減効果の検証と経済性評価」地盤工学ジャーナル,Vol.9,No.4 2014年
  • (共著)「Liquefaction in the Kanto region during the 2011 off the pacific coast of Tohoku earthquake 」Soils and Foundations,Vol.54, Issue.4, August 2014 2014年

誇りを持ったエンジニアを育てたい。

 土木工学を学ぶ学生たちには、自分たちの学びが社会の安全安心を守ることにつながるんだということを意識してほしいんです。そう感じることで、自分たちが努力し続けなければならないことに気づくはずです。私の授業でも、それに気づいてもらうためのメッセージを常日頃から伝えるように努めています。そして、ただ知識を蓄えるのではなく、使える知識こそが重要だということも学生たちに感じてほしいことです。

 研究室の学生には、私が取り組んでいる液状化に関連した研究をともに進めてもらいます。講義では、教える側と教えられる側という明確な区分があると思いますが、研究室での活動は違います。研究室は、新しい何かを見つけたり、つくったりする場です。そこでは、教員と学生の関係はパートナーなんだろうと思っています。学生のアイデアに、こちらがはっとさせられる経験は、これまでにも何度とありました。そのためにも、「現場」での調査活動には、必ず学生たちに帯同してもらっています。また、研究室での取り組みは具体的な形で企業と連携していますから、学生たちにとっても自分の研究に社会性が生じていることに気づける場でもあるんですね。その気づきは、学生たちがさらに学ぼうとする動機になるはずです。

 ともに学んだ学生たちの多くが、シビルエンジニア(土木技術者)として建設会社や行政で働いています。彼らには、「土木」という仕事に誇りを持ち、それを社会に発信できる人であってほしいんです。建設業に対する3K(きつい、汚い、危険)のイメージや、公共事業の削減などといった状況下で、土木技術者の仕事が過小評価された時期もありました。しかし、「土木」は、社会インフラの構築や整備を通じて、人々の財産や生活、命を守ることに直接的につながっていくものです。社会を守っているという誇りや、誰かのためにという情熱こそ、よりよく働こうとするモチベーションの根源になるはずです。だからこそ、清廉で、実直で、誠実で、情熱を持ち続けるエンジニアでいてほしいと願っています。

担当科目

  • KGUかながわ学(自然)
  • 地盤工学入門
  • 地盤工学
  • 地盤防災工学
  • 地震防災工学
  • 土木工学総論
  • 地盤工学基礎演習
  • 地盤工学応用演習
  • 土質力学演習
  • 土木工学基礎実験
  • 都市防災実験
  • インターンシップ
  • KGUインターンシップ実習
  • フレッシャーズプロジェクト
  • 国内土木施設研修
  • 土木行政実務研修
  • 土木学外実習
  • 卒業研究基礎
  • 卒業研究
  • 地盤・防災工学研究(大学院)
  • 地盤防災工学特論(大学院)
  • 地盤・防災工学特殊研究(大学院)
  • 地盤工学特殊講義(大学院)
  • 地盤耐震工学特論(大学院)
  • 文献研究(大学院)
  • 研究実験(研究演習実験)(大学院)

産官学。すべてを経験したからこそ、語れることがあるはずです。

 近年、地震などの自然災害に対して「防災」ではなく「減災」の概念が導入されるようになってきました。「防災」は、被害を出さないことを目指した取り組みです。被害が0であることは望ましいことですが、阪神大震災や東日本大震災など過去の大規模災害を経験し、それが現実的ではないことを私たちは思い知らされてきました。「減災」とは、被害が発生することを想定し、その被害の程度を減らしていこうという発想です。ですから減災を論じるには、何が起こるかが正確に理解されていなければなりません。先にもお話しましたが、公共財産であれ、私有財産であれ、災害に対処できるコストは無制限ではありません。経済的事情もある中で、どこまでの対策ができるかを判断しなければなりません。

 かつて、行政は包括的に市民を守るという意識から、市民に正確な情報提供をせず、防災に取り組んできた時代があります。市民の側も、盲目的に行政に防災を丸投げしていたとも言えるでしょう。しかし、多くの災害を経験したわが国は、災害対策に対して的確な情報を行政も市民も持っている必要があります。この地域で、どんな被害が想定されるのか、現状ではどこまでが守れて、どこからが守れないのか、行政だけではなく、市民もそれを理解し、どこまでの被害であれば許容できるのかを、社会全体で考えていかなければなりません。もちろん、人の生命に関わる被害はゼロを目指さなければなりません。では、道路の被害はどこまで許容されるのでしょうか、水道管の被害はどこまで許容されるのでしょうか、経済的理由だけではなく、そこに暮らす市民の心情も汲み上げながら、「減災」を目的とした許容範囲のコンセンサスを形成し、対策を進める時代に入っています。

 そのコンセンサス形成の段階で、行政、市民、そして対策を実際に設計・施工する企業やエンジニアが的確な情報を持ち合わせなければなりません。その情報提供が、まさに私自身の社会的役割なのだろうと思っています。

 企業や行政で勤務した経験を生かして、大学の教壇に立つ教員は多くいます。その両方を経験したという人は、あまり見受けられません。私は、関東学院大学に着任する前、ゼネコン(総合建設会社)で長年勤務し、建設プロジェクトの設計、施工、品質管理をする企業の側の事情もよく理解しています。また、ゼネコン勤務時代に長い期間ではありませんが、国土交通省の研究所への派遣勤務で計画、発注側の立場も経験しました。つまり、産官学すべてを経験した比較的珍しい立場にいます。もちろん、生活をする一市民でもあります。産官学民、すべての事情や心情を理解するのに、容易な立場にいます。その立場を生かして、行政、企業、市民それぞれに必要な情報を提供し、「減災」に向けたコンセンサス形成に関わっていければと思っています。

 災害への関心が強くなるなかで、市民向けの防災講演会や行政での防災関連の委員会活動などに呼ばれる機会も増えてきています。産官学民が連携する時に、ハブの役割を大学の教員として担い、それぞれの立場に適切な情報提供をしていければと思っています。この国で、地震を含めた大規模災害を避けることはできません。避けることができないのであれば、どう付き合っていくのか、ハードの面だけでなく、ソフトの面でも社会全体で関わっていく時代に入っているのです。ソフト面での防災には、必ず技術的な経験・知識の裏づけが必要です。

取材・原稿作成 関東学院大学広報課