出石 稔

法学部
地域創生学科
教授

基本情報

専門分野 地方自治法、地方自治政策論、行政法
研究テーマ 自治体における政策法務の推進(条例制定の可能性と限界についての実践的研究)
地方分権・地域主権時代における自治体政策の推進(自己責任・自己決定にもとづく自治の推進に関する実践的研究)
最終学歴 國學院大学法学部 卒業
学位 法学士
研究キーワード 地方自治、行政法、政策法務、地方創生、
条例、地方分権、地域主権、まちづくり

事例に基づき、よりよい地方自治のあり方を検討する。

 大学卒業を前にして、育った街で仕事ができればという思いがありました。そして、自分の暮らす街をよりよくしたい。そんな思いで、地元・横須賀市の公務員という道を選びました。横須賀市役所には、約20年間勤務しました。1990年代後半から、地方分権の重要性が叫ばれ、各自治体が画一的な施策ではなく、独自の取り組みをスタートさせるようになりました。横須賀市でも、私自身が提案して土地利用に関する条例が制定されました。この条例は、全国的に自治体関係者から非常に注目され、近年多くの自治体が制定している「まちづくり条例」と比較しても、ひときわ優れた誇れるものになったと確信しています。

 こうした横須賀市の取り組みに関わるなかで、同様の事例を日本全体に広げていく必要があることに気づいたのです。そんな時、いくつかの大学から声をかけてもらい、やはり地元・神奈川に貢献できればと、関東学院大学の教壇に立つことを決心しました。

 地方自治体では、条例と呼ばれる国の法律とは別に定める地域独自のルールを制定しています。憲法には、「法律の範囲内で条例を制定できる」と記載されています。この条文から、条例が定める規制や罰則は、法律を越えてはいけない、つまり法律より厳しくなってはいけないと議論されてきました。しかし、地域ごとに抱える課題は千差万別です。地域によって気候も風土も社会環境もまったく異なります。では、それぞれの地域課題にあわせて、どこまで条例の役割を強化していくかというのが私の研究テーマです。

 例えば、沖縄県で生活保護を受給していた老夫婦がエアコンを利用していたところ、「エアコンはぜいたく品だから、利用を続けるようであれば生活保護を打ち切らなければならない」と行政が指導した事例があります。この指導の結果、何が起こったかと言えば、この生活保護受給を続けるためにエアコンを処分したこの夫婦は、夏に熱中症のために亡くなってしまったのです。国の規定を杓子定規に運用した悲劇と言えるでしょう。南北に長い日本列島で、地域ごとの特性に合わせ、国の指針とは異なる運用が必要なことは、このケースからも明白です。

 基本的には、先進的な地方自治体の取り組みを調査し、その取り組みのメリットやデメリットを探っていくという方法が私の研究手法です。ただ、法学はよりよい社会を築くための実学です。調査して発表してお終いではなく、それを他の地域に応用していく方法を考え、提案していくことが私の役目だと信じて、研究に取り組んでいます。国とは地方の集合体です。地方が発展することは、国が発展することを意味するのです。地域活性化、地方創生の方法を、行政的な視点から探り、提案していきます。

主要業績

    【著書】
  • (共著)『自治体法務検定公式テキスト・政策法務編 平成28年度検定対応』第一法規 2016年
  • (共著)『明快!地方自治のすがた』学陽書房 2015年
  • (共著)『自治体政策法務-地域特性に適合した法環境の創造』有斐閣 2011年
    【学術論文】
  • (単著)「条例に基づく「略式代執行」の可否」ぎょうせい『月刊ガバナンス』179号 2016年
  • (単著)「行動促進・行為規範条例―今どきの条例(政策法務条例)③」ぎょうせい『月刊ガバナンス』175号 2015年

現場を理解することこそ、地方自治を理解する最善の方法

 学生たちには、自分が住んでいる場所、あるいは自分が育った場所をあらためて見つめ直してもらえればと思っています。その地域にどんなよい点があるのか?もしくは課題は何なのか?地方自治を学ぶ上で、その視点こそ必要だからです。

 ゼミナールでは、地方自治や行政法に関する基本的理解を深めた上で、実際の事例を学んでいきます。事前学習をし、現場に足を運び、関係者の話を聞いて、論文やレポートで地方自治に関連した提案をまとめてもらいます。最近では、藤沢市に協力してもらいました。藤沢市では、教育委員会が中心になっていじめ対策条例を2015年に制定しています。通常のいじめ対策では、学校での取り組みが重視されます。しかし、藤沢市では学校現場のみならず、地域や家庭などに対しても、その役割を規定した部分が非常に画期的でした。学生たちは、教育委員会の職員に実際に話を聞く中で、いじめが陰湿化していることや、インターネットなどを利用する形で大人が気づきにくい状況が生まれていることなどを実感していました。いじめ問題は、形を変化させながら連綿と続く問題であるからこそ、学生たちに気づいてほしい部分があったのです。こうした現場見学の取り組みの他に、神奈川県内の市町村に協力してもらいながら、ゼミの希望者をインターン生として複数の自治体に毎年派遣しています。なぜ現場での取り組みを重視するかと言えば、現場を見ずして地方自治を理解することはできないと思うからです。日々課題に直面する現場の声を聞いてこそ、学生たちは教室では気づけない、新たな学びを得ることができるはずです。

 より魅力的な地域を築きたいという気持ちこそ、地方自治を理解する第一歩です。そうしたマインドを持って活躍する地方公務員を育てることが私の役割のひとつです。もちろん公務員志望ではない学生もいますが、誰でも必ずと言っていいほど地域と関わります。地域をよりよくしていくこと、この気持ちを持って、地域を元気にするエネルギーを持つ人を一人でも多く育てていきたいですね。

担当科目

  • ゼミナール
  • KGUインターンシップ実習
  • プレゼミナール
  • 合同論文指導
  • 地方自治法特殊研究
  • 地方自治法
  • 地方自治政策論
  • 地方自治法専門応用(演習)
  • 地方自治法基礎講義
  • 地方自治法特殊講義

自治体とのネットワークを社会にも、学生にも還元する。

 先にも触れましたが、法学こそ実学なのです。その地域に必要な条例を制定することや、自治体運営にコミットし、自らの知見を提供することこそ、私の役割です。そのために、地方自治体との連携は欠かせません。神奈川県内の自治体を中心に、政策立案のための委員会活動なども時間が許す限り協力しています。最近のものでは、横浜市のいわゆるごみ屋敷対策審議会、葉山町の情報公開審査会や鎌倉市のまちづくり審議会、厚木市の自治基本条例推進委員会などの会長や委員を務めるなど、10を超える自治体の政策にかかわっています。もともと、地方自治の現場にいたこともありますので、机上で完結する研究ではなく、こうした委員会活動に参加し、建設的な意見を提言することで、自治体改革や地方創生において役割を果たしていくことができれば本望です。

 公務員時代からも含め、こうした自治体とのネットワークは、私が提言するだけの関係ではなく、私自身が各地域の課題や取り組みを理解し、政策研究を進める上でも重要です。学生だけではなく、研究者である私にとっても、現場の声を聞かなければ理解できない問題がたくさんありますから。

また、こうしたネットワークを広げることで、教育にも多くを還元できればと思っています。ゼミの取り組みだけではなく、講義形式の授業でも自治体に協力してもらっています。例えば、県内の自治体の首長にゲストスピーカーとして、それぞれの地域での課題や取り組みについて語ってもらったこともあります。また、地方議員に協力してもらった授業も用意しました。その授業は、横浜市のある市議に担当してもらっています。その市議が所属する政党だけではなく、保守から革新まで立場やイデオロギーの違いを超えた議員が毎回ゲストとして登壇。地方議会の役割や、各議員それぞれの仕事内容などを語ってもらいます。こうした第一線の現場で活躍する人の生の声を聞くことは、学生が知識を身に付けるためだけではなく、学ぶことの意義を見出す場としても大切なのではないでしょうか。

私が仕事をすることで、さまざまな人と出会い、新しいネットワークが産まれていきます。このネットワークを眠らせたままでは絵に描いた餅に終わってしまいます。社会的役割を果たすため、次世代の教育のため、それぞれで生かしていく方法を、より多く育んでいければと思っています。

取材・原稿作成 関東学院大学広報課