理工学部(2026年度より情報学部開設)・元木研究室では、
2025年より密漁被害に悩む横須賀市の課題解決に向け、
ドローンとAI技術を活用した密漁監視・取り締まりシステムを開発。
密漁が多発する海域でドローンを飛行させ、
密漁行為の自動検知を行うAIシステムの有効性を検証しました。
- 1−1
- Project Story①
「横須賀市が長年悩まされる密漁被害。
密漁者から資源を守れ。」 - 1−2
- Project Story②
「膨大な画像を学習させ、
AIによる検知システムを開発。」 - 1−3
- Project Story③
「自分の手掛けたシステムが
社会に役立つことを実感。」 - 2−1
- Project Interview 学生①
- 2−2
- Project Interview 学生②
- 2−3
- Project Interview 行政担当者①
- 2−4
- Project Interview 行政担当者②
- 2−5
- Project Interview 担当教員

横須賀市が長年悩まされる
密漁被害。
密漁者から水産資源を守れ。
現在、横須賀市の沿岸部では、アワビやサザエなどの密漁が多発している。レジャー客が密漁と知らずに採取する事案が多く、横須賀海上保安部による監視や取り締まりだけでは限界があった。そこで、AIの研究を行う元木研究室、ドローン操縦の登録講習機関に指定されている神奈川県立海洋科学高等学校、横須賀市が連携し、2025年6月より「密漁対策システム」の開発を開始。プロジェクトを始めるにあたり、学生たちは横須賀市の現状を調査。密漁による検挙者数は特に近年高止まりしており、水産資源の保護が喫緊の課題であること、現場は広大で足場も悪く、パトロールには大きな労力がかかることなど、現場の声から地域課題の現状を理解した。

膨大な画像を学習させ、
AIによる検知システムを開発。
元木研究室の学生たちが開発したのは、ドローンの映像に映った人物が密漁者なのか、それともただの海水浴客なのかをリアルタイムで検知できる画像解析システム。横須賀海上保安部の協力のもと、海上保安官が密漁者役となり、サザエなどの貝類を捕獲する動作を撮影し、映像から1万枚以上の画像を用意。その画像に対し、「アノテーション」と呼ばれるAI学習用のラベル付け作業を1枚ずつ手作業で行った。学生たちは何をもって密漁者とするのか、基準となる行為について繰り返し議論を重ね、最終的には密漁に使用する網やヘラに着目する検知基準を設定し、システムを構築することに成功。

自分の手掛けたシステムが
社会に役立つことを実感。
8月には、横須賀市の沿岸部でドローンを飛ばし、システムの有効性を検証する実証実験を実施。ドローンで撮影した映像は近くの広場からリアルタイムで確認され、現場には海上保安官が待機し、密漁者の摘発も試みられた。多くの報道陣が見守る中、ドローンの操作は神奈川県立海洋科学高等学校の生徒が担当し、学生たちがAI検知システムの動作確認を行った。当日は密漁者と思われる人物は見つからなかったため、学生が密漁者役となりシステムを検証。密漁者に扮した学生の動作をリアルタイムに検知することに成功し、学生たちは「無事に検知できてよかった」と安堵した。この実証実験を経て、今後はさらに学習データを増やし、システムの精度を高める予定である。水産資源を守る密漁対策システムの研究・開発はこれからも続く。

理工学部
情報ネット・メディアコース
(2026年度より情報学部開設)
4年生
高見 拓夢さん※学年は取材撮影時のものです。
-
手探りで始めた
人工知能の開発が
社会の役に立つ喜び
理工学部
情報ネット・メディアコース
(2026年度より情報学部開設)
4年生
高見 拓夢さん※学年は取材撮影時のものです。
プロジェクト開始当初は、人工知能のプログラミングに関する知識がほとんどなく、手探りでのスタートでした。特に1万2,000枚に及ぶ画像のラベル付け作業は大変でしたが、AIという人間ではない存在を、人間のように育てながら構築していくことはとても面白かったです。実証実験では、私自身が密漁者役となって海に潜り、検知されるかどうかを検証しました。後に「きちんと検知できていた」と聞いて安心すると同時に、自分の作ったものが思い通りに動いたことがとても嬉しかったです。人工知能は、私たち人間が担う仕事を省力化するために開発するものだと思うので、人の目に代わるシステムを開発し、社会に貢献できたらと考えています。
-
人工知能の可能性を
自分の手を動かしながら
知ることができた。
理工学部
情報ネット・メディアコース
(2026年度より情報学部開設)
4年生
日下 誠士さん※学年は取材撮影時のものです。
実証実験で、私たちが構築したAIシステムがリアルタイムに密漁者かどうかを判別した瞬間は、本当に感動しました。大学に入学した頃は、人工知能にはあまり関心がありませんでした。ただ、授業などで触れる機会が増えて「どんな仕組みで動いているのだろう」と気になり、元木研究室へ。今回のプロジェクトを通して改めて感じたのは、AIでできることは本当に幅が広いということ。「これは無理だろう」と思っていても、データを与えればAIは必ず何らかの形で答えてくれます。最初は密漁者を判別するなんて本当に自分たちでできるか?と不安もありましたが、実現することができました。卒業後は、在学中に体験したプログラミングやシステム開発などの経験を活かして働くことができればなと考えています。

理工学部
情報ネット・メディアコース
(2026年度より情報学部開設)
4年生
日下 誠士さん※学年は取材撮影時のものです。

横須賀海上保安部
警備救難課
久保 祐一郎さん-
学生たちのAIシステムと
私たちの監視体制が
合わされば
大きな未来の希望に。
横須賀海上保安部
警備救難課
久保 祐一郎さん始まりは、横須賀市から「密漁対策にAIを搭載したドローンを活用できないか」と相談を受けたことがきっかけでした。私たちも日夜パトロールを続けていますが、広い海域で多くの海水浴客の中から密漁者を特定することは容易ではありません。今回の実証実験では、ドローンの監視範囲の広さや、AIによる監視の自動化に大きな可能性を感じました。実用化できれば、私たちの監視能力は飛躍的に向上するでしょう。また、監視だけでなく抑止効果も期待できます。学生の皆さんには、今後もプロジェクトを通じて自身の研究が社会と直接つながる実感を重ね、モチベーションにつなげていってほしいです。
-
横須賀の海を守るため。
学生たちの熱心な姿に
頼もしさを感じた。
横須賀市
経済部農水産業振興課
関口 洋資さん横須賀市にとって、密漁は長年の課題でした。水産資源の保護や漁業者の生活への影響を看過できない一方で、監視や検挙にかけられる人手には限界があるのが実情です。そうした中で始まったドローンとAIを活用するこのプロジェクトには、大きな可能性を感じています。学生の皆さんが熱心に議論を重ね、試行錯誤しながら研究を進める姿は非常に頼もしく映りました。今回の実証実験は、社会実装に向けた大きな一歩です。将来的に、このシステムが海上保安庁や漁業組合で日常的に活用されれば、密漁の摘発や抑止につながることが期待できます。学生の皆さんには、これからも研究の成果を社会に発信し続けてほしいですし、それが地域の海を守る大きな力になると思います。

横須賀市
経済部農水産業振興課
関口 洋資さん

理工学部
情報ネット・メディアコース
(2026年度より情報学部開設)
教授 元木 誠-
社会に役立つ技術を
現場の声とともに
作り上げる経験。
理工学部
情報ネット・メディアコース
(2026年度より情報学部開設)
教授 元木 誠このプロジェクトで学生たちに感じてほしかったのは、社会と連携しながら研究を進めることの大切さでした。現場で実際の課題を目にし、ニーズに応じたシステムを開発する。まさに実社会での体験そのものです。今回は海上保安部や地元関係者と協力し、現場の声を反映させながら開発を進めることができたので、学生たちにとっても貴重な経験になったのではないでしょうか。実証実験では、学生たちの努力の成果もあり、密漁行為を正しく検知することができました。ただし、実用化可能な人工知能の頭脳を「大人」にたとえるなら、現状はまだ「5歳の子ども」に過ぎません。今後はさらに学習データを蓄積し、精度を高めながら、学生たちとともに社会実装に向けた改良を進めていきたいと考えています。





















