建築・環境学部の粕谷研究室は、
野菜の無人販売をアートの視点から考える「KOYARTプロジェクト」に参加。
横須賀市の農家・鈴也ファームと連携し、
無人野菜販売所を兼ねた小屋の設計・制作・販売に挑戦。
学生たちは、全工程を自ら手がけ、
地域とつながる建築の新しいかたちを実践しました。
- 1−1
- Project Story①
「学生たちの集合知で作る
野菜の無人販売の未来。」 - 1−2
- Project Story②
「設計した1/1スケールの小屋を、
学生自らの手で作り上げる。」 - 1−3
- Project Story③
「リアルな声と体験を通して
地域へつながる建築の「価値」を再確認。」 - 2−1
- Project Interview 学生
- 2−2
- Project Interview 企業担当者
- 2−3
- Project Interview 担当教員

学生たちの集合知で作る
野菜の無人販売の未来。
「無人野菜販売所を再考する」ことを目的に、プロジェクトは東京大学、芝浦工業大学、日立製作所などとともに、2019年よりスタート。無人販売が持つ可能性や課題をアートの視点から考えることで、農家と消費者の新しいコミュニケーションの可能性を模索した。2021年からは小屋+アートの造語「KOYART」と名付けられ、学生たち自身の手で無人販売所が作られる。粕谷研究室では、毎年5月になると研究室の全員でアイデアを持ち寄り、学生同士の指摘や粕谷教授のアドバイスを受け、発表を重ねながら、一つに絞っていく。普段の授業とは違い、家や施設などの大きな建築でもなく、家具でもない、「小屋」という規模の建築であること、配置した野菜が雨に濡れないかなど具体的な課題と向き合うことは学生たちにとってハードルが高く、実践的な学びとなった。

設計した1/1スケールの小屋を、
学生自らの手で作り上げる。
本年度学生たちが制作したのは「立体的な畑」。箱を重ねることで、上にも横にも広がるような空間をつくることができ、また箱の中には、販売する野菜だけでなく、草花を配置することで、収穫のような体験を楽しみながら野菜を購入することができるというコンセプト。案を絞り、設計図が完成したあとは、研究室のメンバー20人ほどで制作。初めて扱う大型機材や木材の切り出しにも挑戦しながら、一つずつカタチに。最初は思うようにプログラミングした木材の切り出しがうまくいかず苦戦する場面もあったが、夏休み期間をかけて「自分たちが設計したものがカタチになっていくワクワク」を学生たちが感じる良い機会になった。また、販売する野菜の仕入れも学生が担当。学生自らが交渉した横須賀市の鈴也ファームと打ち合わせをしながら、どんな野菜を配置するのがいいのかを検討していった。

リアルな声と体験を通して、
地域へつながる建築の
「価値」を再確認。
完成した粕谷研究室の「KOYART」は、10月11日・12日の二日間に渡り、横須賀美術館の海の広場で展示され、実際に野菜を販売した。当日は早稲田大学、明治大学、東京大学、神奈川大学、芝浦工業大学、そして、関東学院大学の2研究室のKOYARTが勢揃い。移動式のものや、釘やビスを使わないもの、テント型のものなど、各研究室の多種多様なコンセプトで作られたものが展示。加えて他大学の学生から制作工程の話や考え方の意見交換も行え、学生同士の刺激になっていた。粕谷研究室では鈴也ファームのレインボー野菜を中心に展示。実際に訪れた人が、KOYARTに並べられた野菜を手に取って購入するまでの工程を体験できた。学生たちも「想像以上に売れて驚いた」と語る通り、イベント当日は大好評。自分たちが作った建築がどのように見られて、価値があるのか。改めて建築の魅力を実体験できる機会となった。作ったKOYARTの一部は、実際にファームで使われた年もあったが、まだ完成品をそのまま使われるには道のりは遠い。完全とはまだ言えない。来年に向けて、今年の反省を活かし、次なる構想を学生たちは始めている。

建築・環境学部
建築・環境学科4年生
宮本 莉子さん※学年は取材撮影時のものです。
-
自分らしさを、
小屋の中に詰め込み、
建築の力と魅力を再認識。
建築・環境学部
建築・環境学科4年生
宮本 莉子さん※学年は取材撮影時のものです。
「実際に手を動かして、形にしていくことができる」そんな期待を胸に、粕谷研究室に入りました。昨年、先輩たちが制作していた様子を見ていたので、「次は自分たちの番だ」と、このプロジェクトを心待ちにしていました。自分の考えた“立体的な畑”の案が採用されたときは、本当に嬉しかったです。特に難しかったのは、デザイン性と機能性の両立。シンプルでありながら「デザイン性がある」と評価してもらえたことも励みになりましたし、分解して持ち運びができることや、拡張性の高さなど、細部までアイデアを詰め込みました。横須賀美術館での展示当日には、お客さんから「これはどういうコンセプトなの?」と声をかけていただき、実際に自分の考えたKOYARTから野菜を手に取って購入してもらえた際には、とても嬉しくなりました。自分の思い描いたものが形になり、人に見てもらえる。そして、それが地域の未来へとつながっていく。建築の魅力をあらためて実感し、その面白さを強く感じた時間でした。
-
学生たちの
新しい視点が、
地域との新たな
コミュニケーションに。
鈴也ファーム
代表 鈴木 優也さんKOYARTプロジェクトに参加したきっかけは、学生たちが私のファームを訪ねてきてくれたことでした。プロジェクトの概要を聞いたとき、学生と農家が連携するという発想に新鮮さと意外性を感じました。そして何より、学生たちが自らの意思で足を運んでくれたことが嬉しく、その思いを大切にしたいと思いました。毎年、学生たちが手がける作品を見せてもらっていますが、その発想力にはいつも驚かされます。四角い箱を組み合わせて売り場をつくったり、ジャガイモの形をした台に野菜を並べたりと、私たちには思いつかないようなユニークなアイデアばかりです。一方で、このプロジェクトを通じて、学生たちには「ビジネスとしての現実性」を学ぶ機会にもしてほしいと考えています。限られた設置スペースの中でどう見せるか、野菜が雨に濡れない工夫、そして何より“売れるかどうか”。無人野菜販売は、ある意味で地域とのコミュニケーションのひとつでもあります。味は変わらなくても、見た目に少し個性を加えることで、捨てられるはずだった野菜に新しい価値を持たせ、地域の人に届けていく。いつか、学生たちが作った販売所を実際にファームで活用できる日を、楽しみにしています。

鈴也ファーム
代表 鈴木 優也さん

建築・環境学部
建築・環境学科
教授 粕谷 淳司-
KOYARTを通して
人の心に触れる価値を
創造する面白さを
知ってほしい。
建築・環境学部
建築・環境学科
教授 粕谷 淳司学生たちにとって、このプロジェクトで得た最大の経験は、「原寸で“つくる”こと」だと考えています。建築学では、普段は模型や図面での表現が中心ですが、実際に原寸で建てることで、強度や耐久性、素材の扱い方など、現実的な制約を肌で理解することができます。さらに重要なのは、デザインが社会にどう受け止められるかを体感することです。野菜販売所は、地域の人々や来場者に「おいしそう」「面白い」と感じてもらって初めて成り立ちます。つまり、デザインは人と人とをつなぐコミュニケーションの媒介である——この実感こそ、学生たちに学んでほしいことです。今回のプロジェクトでは、学生たち自身がアイデアを出し、1/1スケールで制作し、完成したKOYARTに実際に商品を並べて販売するという、一連のプロセスをすべて体験しました。この取り組みは、消費的なデザインの枠を超え、デザイナー・作り手・使い手の三者が能動的に関わる、新しいデザインのあり方を探る実験の場にもなっています。今後は、学生たちがデザインと制作を通じて「人の心に触れる価値」をどう生み出していけるのかを、さらに追究していきたいです。木材以外の素材にも挑戦し、より多様な表現と学びの場を広げていくつもりです。





















