研究報
Research Expectations

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F-Lab.2022

宇宙から注ぐ微量のX線から地球の謎、生命の謎に迫る!

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中嶋 大 NAKAJIMA Hiroshi

理工学部 数理・物理コース 准教授

宇宙物理学/高エネルギー天文学

宇宙から届いている光は
「可視光」だけじゃない

夜空を見上げると数え切れないほどの星が輝いている。今から138億年前にビッグバンによって宇宙が誕生し、やがて天の川銀河が形成される。そして、我らが地球のある太陽系が生まれたのは今から約50億年前―。毎日、何気なく見ている星の光は、今から何億年、何十億年も前のものだという話を聞くと宇宙の壮大なスケールに圧倒されてしまう。そんな宇宙に降り注ぐ光が人間の目で見える「可視光」だけでないことは、あまり知られていない。関東学院大学理工学部数理・物理コースの中嶋大准教授は、肉眼では見えない宇宙からの光のメッセージを収集している。
「宇宙から降り注ぐX線を観測しています。そもそも宇宙を観測する際は、物質から放たれる電磁波に着目します。その種類は可視光のほか、赤外線、X線、ガンマ線など多岐に渡ります。私はX線をターゲットに選び、特殊なカメラを開発して、観測しています。X線は地上には届かないため、カメラを人工衛星に搭載して観測を行い、取得したデータを分析して、宇宙の謎に迫っています」

高エネルギー宇宙の観測で
物質の未知の状態を知る

中嶋准教授の研究テーマは大きく分けて2つある。それは、「高エネルギー宇宙の観測」と観測に用いる「超高感度カメラの開発」だ。
 まず、宇宙からのX線を観測することで明らかにしようとしているのは、数百万度から数億度という高温度・高エネルギーの現象だ。例えば、中嶋准教授が追い求める対象のひとつが、大質量の恒星が爆発して誕生する「中性子星」と太陽の数十倍以上の質量を持つ「超巨星」の連星。ブラックホールのような性質を持つ中性子星が、ガスでできた超巨星を吸い込んでいく様子を観測しているという。
「中性子星を取り巻くガスには鉄が含まれていて、そこから放射されるX線を観測すると、ガスが激しく運動しながら中性子星に向かって落ちていく様子が手に取るようにわかります。こうした地球上では絶対に実現できない条件下での物質の振る舞いをデータとして取得できるのが、高エネルギー宇宙観測の醍醐味だと思います」
 中嶋准教授は、ほかにも1670年頃に超新星爆発を起こした残骸である「カシオペア座A」の観測にも力を入れている。水素のほか、金、銀、銅、ニッケルなど、超新星爆発によってどういう物質がどれだけ放出されたのかを知ることで、私たちが住む地球やここで暮らす生命体がどのような元素でつくられたのかを知るヒントが得られるのだという。

中性子星を取り巻くガスの密度やサイズを解明することで、星の進化過程の理解につながる

観測衛星XRISMに搭載する
高感度カメラをJAXAと開発

宇宙の謎を解き明かすための観測カメラを自ら開発している点も中嶋准教授の研究の特徴だろう。大面積のX線センサーを配置し、微量の光を無駄なくキャッチし、さらにノイズを極限まで減らして、クリアな画像データの取得をめざしている。
「現在は、2022年度の打ち上げをめざしている観測衛星XRISM(クリズム)に搭載する高感度カメラをJAXA(宇宙航空研究開発機構)や他大学の研究室と共同開発しています。自分が手がけたカメラで世界初の現象を観測できるというのは、研究者にとってこの上ない喜びです」
 XRISMは、JAXA、NASA(アメリカ航空宇宙局)、欧州宇宙機関が共同で進めている観測衛星のプロジェクトで、中嶋准教授は搭載されるCCDカメラの集積回路の開発責任者として設計や試験を行っている。

中嶋准教授がメーカーと共同開発しているCMOSセンサー(右)とセンサーの信号を処理する専用ICチップ

中性子星と超巨星の連星のイメージ図。中性子星を取り巻くガス中の鉄の電離状態を測定する

X線天文衛星「ひとみ」で撮影したペルセウス座銀河団のX線画像。中嶋准教授が搭載カメラの開発を手がけた

もともと学術研究都市である茨城県つくば市近郊で育った中嶋准教授は、1985年に開催された「科学万博-つくば’85」の会場で、大型望遠鏡の向こうに見た土星や木星の姿に圧倒された。宇宙の神秘に魅せられた少年は、その後、大学で宇宙物理学と出会い、今ではJAXAやNASAと一緒にまだ誰も知らない宇宙を追い求める最前線に立っている。
「いろいろな天体の背景を調べていけば、必ず宇宙の謎を解き明かすような共通の物理現象が見つかると考えています。宇宙の彼方から届くX線の微量の光を読み解き、地球の謎、生命の謎に迫りたいと思っています」

※この記事は2021年5月に作成したものです。