研究報
Research Expectations

F-Lab.2023

脳卒中者の身体活動量を把握し リハビリの指導指針を構築する

220601-205

木村 鷹介 YOSUKE KIMURA

理工学部 健康科学・テクノロジーコース 講師

リハビリテーション科学/医療福祉工学

患者のデータを用いてリハビリをカスタマイズ

データサイエンスを駆使した医療分野の研究にますます注目が集まっている。AIの画像認識を使った診断や遺伝子情報から将来の疾患を予測するシステムなどテーマも実に多様だ。その応用範囲は、理学療法、つまりリハビリテーションの分野にも及んでいる。

関東学院大学理工学部健康科学・テクノロジーコースの木村鷹介先生は、大学で理学療法を学び、卒業後は理学療法士として、医療現場で10年間実務に携わった経験を持つ。日々患者のリハビリを担当するなかで、研究の端緒を見つけ、大学院に進学。そのまま博士課程まで進み、研究者の道へ踏み出した。

「きっかけは、理学療法士として病院に勤務していたときの気づきでした。リハビリの時間は、通常1日1時間程度しかありません。しかし、実はリハビリ以外の時間こそ重要で、決められた時間以外にも積極的に身体を動かす患者さんがどんどん回復していく様子を現場で目にしました。そこで私は、ウェアラブルデバイスなどを使って、患者さんの日頃の状態を把握し、リハビリ指導をカスタマイズする方法を確立したいと考えました」

木村先生が研究対象に選んだのは、「脳卒中者」だ。これは、脳出血や脳梗塞によって、運動麻痺や感覚障害、高次脳機能障害などを抱える人々を指す。実験では、提携する医療機関で治療を受けている脳卒中者に協力してもらい「身体活動量計」を使って、身体活動に関するデータを取得。骨格に沿って分布する骨格筋の機能特性の変化などを観察している。

「超音波画像診断装置で患者さんの大腿部の筋量や筋厚を計り、身体運動量との関連を調べています。身体を動かさないことで、どれだけ運動機能が低下するのか、それを防ぐためにどれくらいの強度で、どれだけ運動をすればいいのか――。こうした科学的なデータを集め、リハビリの指導に役立てていきます」

運動麻痺、感覚障害によって筋萎縮、筋脂肪の増加が進行(左が進行前→右が進行後)

データサイエンスと医療の融合に大きな可能性を感じている

患者の重症度に合わせたガイドラインが必要

木村先生が考えるリハビリ現場の課題は、指導内容が現場の理学療法士の経験や勘に任されているケースがまだまだ多い点にあるという。そこで、データに基づいたリハビリのガイドラインを作成し、患者の年齢や重症度に合わせた指導を受けられるようにしたいと考えている。

「患者さんの重症度によって、指導内容が変わるのは当然です。ただ、症状に合わせたリハビリの指針がないのが実状なのです。実験で得た患者さんの筋量や筋厚のデータを根拠とすることで『この症状の患者さんなら15分に1回は立つように』といった具体的な指導指針をつくることができます」

データサイエンスの知識を人々の健康支援に役立てる研究は、医療だけでなく、スポーツ分野などでも注目を集める。ウェアラブルデバイスなどを使って取得したヘルスデータの活用は、社会的なニーズも極めて高く、学内の他分野との研究連携も期待される。

脳卒中者の再発防止や生活の質向上に貢献したい

もともとスポーツが好きで、高校時代はバスケットボールに打ち込んでいたという木村先生。ケガの治療やリハビリを経験するなかで、理学療法士という仕事に興味を持つようになった。そして、大学は理学療法を専門的に学べる学科に進学。そこで、脳機能障害によって身体が不自由になった人々のリハビリという分野と出合った。そこから、理学療法士として、研究者として、同じ研究テーマと向き合い続けている。

実験で用いる身体運動量計の取得データを脳卒中者用にカスタマイズする必要があるなど、研究における課題はまだまだ多い。それでも脳卒中者の身体活動量と骨格筋機能特性の変化を横断的に調査した報告はまだ少なく、この研究に使命感を感じている。

「データサイエンスと医療の融合に大きな可能性を感じています。できるだけ多くのデータを集めて、脳卒中者の重症度に合わせた指導ガイドラインの基盤をつくるのが目標です。脳卒中者の再発防止、回復後の生活の質向上に少しでも貢献できればと考えています」

超音波画像診断装置で撮影した脳卒中者の大腿部の筋肉の画像。ここから骨格筋機能特性を測定する

身体活動量計の測定データから割り出した患者の平均活動パターン。名古屋学院大学の石垣智也先生から提供された解析用マクロで解析を行った

脳機能障害を抱える実験協力者に身体活動量計を装着して計測する

転載元:【研究で選ぶ大学進学情報「F-Lab.2023」】
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