研究報
Research Expectations

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F-lab.2025

室内温熱環境の実測データを駆使して、
環境にやさしい建築の基準をつくる!

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山口 温 HARU YAMAGUCHI

建築・環境学部 建築・環境学科 教授

建築環境工学

省エネルギーを実現する建物内の温熱環境と熱負荷特性を検証する

カーボンニュートラルという言葉もすっかり身近になってきた。自動車から食品、ファッションまで、あらゆる商品が「環境」をキーワードにアップデートされている。それは建物においても同様だ。今や住宅や公共施設の建築も「環境」というキーワード抜きには語れないという。

「ZEH(ゼッチ)という言葉をご存じでしょうか? これは、Net Zero Energy Houseの略で、エネルギー収支をゼロ以下にする住宅を指します。太陽光発電や断熱材などによって、消費するエネルギーよりも生み出すエネルギーが上回る住宅を意味しています。現在では、多くの新築住宅がZEHで建てられています。つまり、計画段階から環境負荷の少ない住まいをつくる時代なのです。私の専門は、省エネルギーで快適な環境を実現するための建物内の温熱環境と熱負荷特性に関する研究です。実測データを用いて、快適な温熱環境を“見える化”し、建物をつくる際の指針を示したいと考えています」

そう語るのは、関東学院大学建築・環境学部建築・環境学科の山口温教授だ。専門は、建築環境工学。建築計画原論の1分野で、カーボンニュートラルが叫ばれるずっと前からあった学問領域だという。具体的には、熱、光、音、空気など、建築で扱う基本的な環境要素を分析し、環境負荷低減と快適性を追究するのが目的だ。

建築が環境に与える影響を考える上で外せないのが、「パッシブデザイン」だ。これは、エアコンなどの機械的な設備技術のみに依存するのではなく、建築的な工夫によって、環境負荷の少ない建物を計画するというものだという。

「風土や気候特性に合った環境志向のパッシブデザインに対し、人工的な技術で高効率な設備をつくるエネルギー志向の建築をアクティブデザインと表現します。いずれかを選ぶのではなく、両者を融合させながら快適なポイントを探っていくのがこの分野の研究のトレンドです。先ほどのZEHにおいてもこうしたデザインの技術が用いられています。研究室でもZ E H実証建物を事例とした室内温熱環境と熱負荷の検証を行っています」

実測研究で目指すのはパッシブデザインとアクティブデザインの適切な融合

建築を通じて、環境負荷低減に貢献することは社会課題の解決に直結している手応えがある

小中学校と同じ環境衛生基準は保育施設の乳幼児にも適合するか

山口教授の研究室で取り組む研究テーマのひとつが、保育施設における室内温熱環境の実測だ。保育施設には、独自の環境基準がある。それが、実状に沿ったものであるか検証しているという。

「保育施設では学校環境衛生基準に合わせて、温度調節や換気を行っています。しかし、この基準は小中学校も同様のもので、乳幼児にとって快適かどうか疑問が残ります。そこで月年齢に合わせた基準を検討するためのデータを集めています。実験では、大学附属保育園で温度・湿度などのデータを収集し、定点カメラで窓開け換気の状況も把握します。こうしたデータを分析して、新たな環境基準策定の指針として役立てたいと思っています」

山口教授が建築環境工学と出合ったのは大学時代。建築系学部で履修した環境工学の授業で、「建物だけでなく、環境もデザインするんだ」という後の恩師の話を聞き、それが心に深く刺さった。空調などの設備だけでなく、ルーバーや建物外皮などの工夫で建物の環境は、変えることができる。そんな学問分野があると知り、大学院修士、助手を経て博士課程まで研究を続けた。その後、研究者・教員として、主に木造建築を対象に、温熱環境の実測研究を行っている。

「建築を通じて、環境負荷低減に貢献することは、社会課題の解決に直結している手応えがあります。企業や公共施設とも連携しながら、現場での実測データを根拠として、これからの環境設計の指針になるような実証研究を続けていきたいと思っています」

木造3階建ての小学校を想定した実証実験。サーモグラフィを用いて、温熱環境を可視化する

保育施設の実運用に基づく温熱環境や空気環境を実測。月年齢別の居住環境を示した概念図

転載元:【研究で選ぶ大学進学情報「F-Lab.2025」】
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