研究報
Research Expectations

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特集:防災・減災・復興学

2.個人をとりまく「人間関係」を見つめる。

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Interview2 個人をとりまく 「人間関係」を見つめる。
tateyama

立山 徳子 NORIKO TATEYAMA

人間共生学部共生デザイン学科教授

学位:文学修士
専門分野:都市社会学、家族社会学、パーソナル・ネットワーク論

どんな人でも、全く誰とも関わることなく暮らしていける人などいないでしょう。例えば、仕事や学業に関連して付き合いのある人、同級生や先輩後輩との友人関係、ご近所付き合い、親戚・家族…と、誰でも多かれ少なかれ様々な形で人と関わりながら生きています。その数やバランスの違いはともすれば個人的なキャラクターの違いとも取られがちですが、社会学的には違う見方ができます。この個人と他人の関係性を見つめる「パーソナル・ネットワーク」の研究を行っているのが、人間共生学部教授の立山徳子です。人は社会的に置かれる状況が違えば、生き抜くためのネットワークも戦略的に作り変えているというのです。

「例えば、子育てをしているお母さんを考えます。村落部のお母さんに比べて郊外で暮らすお母さんは親と同居する傾向が弱く、また居住地の距離も離れていることが多いため、子育てに親のサポートを期待できません。その代わり、同じような子育てに対する困難さを抱えるお母さん同士の人脈として『ママ友』を構築し、新たなネットワークを開発していきます」。

居住地、階層、性別、ライフステージによっても関係性は変わっていきます。人をとりまく大小様々な社会的要因が、一人ひとりの持つネットワークの違いに繋がっていると立山は話します。

フィリピンスラム地区

きっかけは異世界での体験 。

人と社会の関係性について興味を持った きっかけは、とても身近なところにあったと 立山は振り返ります。
「元々私自身が郊外育ちで、通っていた大 学は都市部にありました。日中はそこで多く の刺激を受けることができたのですが、電 車で1時間ほど揺られて郊外に戻ると、まる で何事もなかったかのようにいつも通りの 平穏な街があるんです。同じ日本の中で、な ぜこんな違う社会があるのだろう?という素 朴な疑問を抱いていました」。
そんな大学時代、フィリピンへ1年間の 留学をする機会を得ます。留学中にスラム 地区へのホームステイを経験した立山は、 そこで“家族の境界がわからなくなる”という 衝撃的な体験をします。
「親戚や近所の人まで出たり入ったりして いて、どこからどこまでが家族なのかわから ない。モノも情報も、声も揉め事さえも境界 が曖昧で、常に落ち着かないんです。一体 何人家族なのかが1ヶ月くらいはわかりま せんでした」。
世の中には全く違う社会の仕組みや価値 観があることを実感したところで、この不思 議な感覚を言語化すべく大学院へと進みま す。社会学を深めながら、以降は一貫して 「家族」や「都市」に注目した研究を続けてい ます。

異なる価値観、人間関係づくり戦略に向き合う。

研究を続ける上で、社会情勢や価値観の“変化”はとても重要なキーワードになります。今注目しているテーマの一つに、「田舎暮らしをする若者の増加」があると立山は話します。
「引退や隠居ではなく、これから人生を謳歌するという年代の人が、都会でも郊外でもなく田舎で農業したり起業したり、今までにあったモデルとは違った“攻めの田舎暮らし”をする人が増えています。全く今まで持ち得なかったネットワークの中にわざわざ飛び込むわけで、地元との関係と移住者同士の関係という二重のネットワークを同時に構築する姿がある。
そこには、今までとは全く異なる価値観やネットワークに対する考え方があるはずで、新しい生き方としてとても興味があるんです」。
扱うテーマに共通しているのは、これまでもこれか らも、都市・郊外・村落といった違う社会的背景を持つ地域の中での人の生活のようです。「特定の自治体の話ではなく、一般化した都市・郊外・村落という切り取り方で見るとどんなパターンが見えて、そこから何が言えるのかを突き詰めたい。地域によって異なる暮らし、価値観、そして人間関係作りの戦略のあり方について、明らかにしていきたいです」と、語ります。

災害復興とパーソナル・ネットワークの関係。

日常生活で各々が持っているパーソナル・ネットワークも、大規模災害時にはその状況が一変してしまいます。災害発生後の避難所内や仮設住宅に注目すると、どうしても福祉的な観点で優先順位がつけられてしまうため、それまで持っていた社会的関係がバラバラになってしまうことが多く見受けられます。
「これが結果として、社会的に見た“復興”にはなかなかたどり着けないということが過去の事例研究などから知られています。では、人間関係が強固に結束されていればいいのかといえばそうでもありません。内向きな結束は、時にコミュニティ外の物事を排除する意識にも繋がるからです」と立山は言います。
災害時や復興を目指す時に、人が緩やかに関係性を作れる仕組みをいかにデザインするかが求められます。それには緊急時だけでなく、普段から人と人が関わりを保つ仕組みを考えておくことが必要であり、それを一般化した視点で見つめるには社会学研究のアプローチが必要不可欠です。
「自分が元気で健康な時には、社会的弱者に対して他人事にしか思わないことが多いでしょうが、誰にとっても明日は我が身の話なんです。社会的弱者を排除しないようなコミュニティのあり方、パーソナル・ネットワークのあり方が常に意識される必要があるのではないでしょうか。

※本記事は2018年3月に作成したものです。