研究報
Research Expectations

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特集:健康と科学

1.活動量を上げて、健康な身体を取り戻す

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DX化が進むヘルスケアの未来

新型コロナウィルスのパンデミックにより、
私たちはこれまで慣れ親しんだ生活様式を変えざるを得ない状況を経験しました。

マスクの着用やソーシャルディスタンスの確保、検温と消毒、テレワークの導入。

何よりも、身近な人に感染を広めないよう
個人個人が日々の体調管理や健康に気を遣うようになりました。

クラスターが発生しやすい学校やオフィス、施設など
多くの人が同じ空間で過ごす場所では室内環境について関心が高まり、
ソーシャルディスタンスを確保するため
以前にも増してデジタル技術が私たちの生活を支えるようになりました。

さらに近年、スマートフォンの普及やウェアラブルデバイスの登場により
運動や健康管理もスマート化が進んでいます。
医療や健康などヘルスケアのデジタル化を見据えた
GAFAMの関連特許の出願数がこの10年で10倍になるなど
健康市場のDXへの関心はますます高まっています。

食事、運動、日常を過ごす生活空間。

全ての人がより良い生活や最後まで幸せな人生を送れるよう
関東学院大学の研究者たちが取り組む課題と目指す未来像についてご紹介します。

 

※2022年5月23日 日本経済新聞「GAFAM、ヘルスケア特許出願10倍 10年で技術蓄積」より

INTERVIEW 01 活動量を上げて、健康な身体を取り戻す
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木村 鷹介 KIMURA YOSUKE

理工学部 理工学科 健康学系(2023年4月開設)

学位:博士(リハビリテーション科学)
専門分野:ライフサイエンス、リハビリテーション科学

日々の活動量とリハビリの関係性

あなたは今日、朝目覚めてからこの文章を読むまでの間にどのくらい体を動かしたでしょうか。1日の中でどのくらい体を動かしているのかを示す値が「身体活動量」です。

座っている時間や起きて体を動かしている時間、さらに細かくいえばどのくらいの強度の運動をどのくらいの時間続けているかまで、ここ数年目覚ましい発展を遂げるウェアラブルデバイスなどの計測機器によって簡単に計測できるようになってきています。

理工学部の木村鷹介専任講師は、専門とするリハビリテーション科学の分野で、日々の身体活動量がリハビリテーションに及ぼす影響についての研究を進めています。

「1日の中でリハビリをする時間は1時間程度です。しかし実際の機能回復には、残りの23時間をどう過ごすかが大事になります。そこで、患者さんの腰に着けた活動量計から得たデータを視覚的にわかりやすく処理することで、自分の24時間の活動状況をわかりやすく知ってもらおうと試みています。具体的に視覚化した値を共有することで、より効果的なリハビリや介護予防の手法開発を目指しています」。

現場感覚を活かした研究

活動量計をリハビリの実践に活かそうというこの研究は、とても多くの関係者の協力のもとで行われています。患者の方々はもちろん、治療を支える看護師にも研究の目的や手法については周知しておかねばなりません。また活動量計は衣服の腰のあたりに装着するので、患者の入浴や洗濯を介助する方にも機器の取り扱いについて知ってもらう必要があります。

「大学の人間だけでなく、医療・介護の現場で働く方にもチームに入ってもらって研究を進めています。まだ始めて数年の研究なので、得られた成果はどんどん発信して行きたいですね」。

木村は、研究者としての顔以外に、現役の理学療法士として週に1回はリハビリテーションの現場で仕事を続けています。「患者の方にどんなフィードバックを行えば日々の行動が変化するのかを考える上で、実際の現場で得る感覚はとても大事ですね」。

可視化されたデータに触れて患者の行動が変わることが重要なこの研究ですが、実際に体験した患者の反応は二分しているようです。「現状を知って前むきに生活を変えようとしてくださる方と、現状は理解しつつも興味を持っていただけない方に二極化している印象があります。ここは大きな課題です」。

さまざまな人の健康維持に貢献したい

動いた方がいいとわかっていても、一旦身についてしまった日々の生活週間を変えることはなかなか簡単ではありません。ましてや下手に体を動かして怪我に結びついてもいけませんので、体を動かすこと自体が億劫になってしまうことも十分に考えられます。

「いろんなタイプの人がいますから、リハビリに向けた方略もタイプ別の検証が必要ですよね。正攻法で勧められる人もいればインセンティブを与えることで活動量が増える人もいるでしょうし、ある程度パターンの類型化をすることでリハビリ現場での取り組みが行いやすくなるのではないかと思っています」。

今は活動量に焦点を絞ってデータを取得していますが、将来的には睡眠状態のデータ取得も視野に入れているようです。

「睡眠は体の回復にとって大事な要素ですし、特に複数人のベッドがあるような大部屋で入院していると安眠するのは本当に難しいです。日々の活動、睡眠、そして食事という3点はリハビリ以前に生きていく上で大事な要素ですから、この辺りは状況の可視化ができるといいなと思っています」。

特に近年のコロナ禍において、日々の活動量が下がっている人はリハビリ中の人に限らず増えています。今は大丈夫でも、活動量の低下が数年後の健康状態に影響を及ぼす可能性は十分にあるでしょう。今の自分の活動量を知ることで健康維持に向けた対策が自ずとできるようになる、この研究の先にはリハビリの域を超えた可能性が広がっています。

※本記事は2022年9月に作成したものです。