研究報
Research Expectations
特集:健康と科学
研究報
Research Expectations
特集:健康と科学
細山田 洋子
HOSOYAMADA YOKO
栄養学部 管理栄養学科
学位:博士(医療福祉経営学)
専門分野:給食経営管理、栄養ケア・マネジメント
毎日の食事は、私たちの健康を支える大事な要素です。食べるものが偏ったり食事が不規則になったりすると、健康維持に必要な栄養が不足してしまいます。そこで食の観点から健康を保つため、専門的な知識を持って栄養管理や給食管理などを行うのが管理栄養士です。
管理栄養士といえば、学校給食、病院や介護保険施設で働く人のイメージを持つ人も多いかもしれませんが、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホーム、認知症高齢者グループホームなど、管理栄養士の配置義務がない施設もあります。そこで栄養学部の細山田洋子教授は、管理栄養士の配置がない高齢者施設の食事提供実態や、入居者の栄養状態の把握についての研究を進めています。
「管理栄養士の配置の有無に関わらず、要介護認定を受けておられる入居者であれば食に関する課題や低栄養のリスクを抱えていることは容易に想像ができます。管理栄養士にアクセスするのが難しい施設に対して調査を進めることで、入居者に接する施設スタッフの方々が栄養のスクリーニングを行えるようなツールの開発などを目指しています」。
高齢者施設での栄養管理は、介護スタッフによる日々の生活サポートがあっても限界があります。そもそも管理栄養士が配置されている病院・施設であっても、出された食事を完食できなかったり服薬の関係で栄養を吸収しにくくなったりと、実態として栄養状態に問題を抱える人がいることが報告書や先行研究で明らかになった経緯があります。
「全国規模の実態調査の結果のもたらした影響はとても大きく、その後の介護保険制度改定で管理栄養士による栄養マネジメントが加算対象となりました。だったら同じ要介護の高齢者が生活する有料老人ホームやグループホームなどでも低栄養のリスクを抱える人がいるはずだと思い、研究を始めました」。
研究の結果、施設入居者の多くが低栄養リスクを抱えており、特に認知症高齢者グループホームを対象とした調査結果では栄養状態が良好の人は1割程度であることが明らかになりました。「そこに管理栄養士がいれば、食事の提供回数や栄養補助食品の提案などが具体的にできるでしょうが、介護スタッフだけでは難しい面もあります。また不安を感じても相談できる管理栄養士が近くにいないと、栄養状態の改善までつながりません」。そこで現在、介護や看護をするスタッフの日常的な観察項目と低栄養リスクの関連性を分析し、低栄養状態の早期発見ができるスクリーニングツールの開発と有効性の検討が行われています。
高齢者施設内での“隠れた低栄養状態”に関する調査は、行政が今後の施策を検討する際にデータとして活用されています。「実態をどんどんエビデンスとして報告しないと、政策には結びつきません。より良い制度設計のためにも、せっせとデータを形にしていかないといけません。また介護や看護のスタッフだけでなく理学療法士や医療スタッフなどさまざまな職種の方々が高齢者の生活に関わります。いろんな職種の人たちが目にできるようにするためにも、しっかり研究結果を論文化することが大事だと思っています」。
自身も管理栄養士として介護保険施設で働いた経験があり、これまで注目してきた個々人の栄養状態から、徐々に視点が広がってきていると感じると細山田は話します。「栄養状態を見ることも大事ですが、栄養状態をつくる『食事サービス』はどうあるべきなのかという俯瞰的な視点で見ることも必要かな、と思っています」。栄養状態から、それを支える食事サービス、そしてその先にある「最後まで幸せな暮らしを支える食事のあり方」という大きな問いへと、研究テーマは広がっています。
※本記事は2022年9月に作成したものです。