研究報
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特集:健康と科学

3.乳幼児でも快適に暮らせる屋内環境を創る

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INTERVIEW 03 乳幼児でも快適に暮らせる屋内環境を創る
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山口 温 YAMAGUCHI HARU

建築・環境学部 建築・環境学科

学位:博士(学術)
専門分野:建築環境工学

保育施設内の環境をデザインする

できるだけ快適な空間で生活したいという願いは、誰しもが持っているはず。では、その「快適な空間」とは具体的にどのような空間なのでしょう。快適さを示す指標はさまざまありますが、中でも環境を構成する基本的な要素である熱や光、風については、どれも欠かすことができません。これら環境要因を工学的な視点で考えるのが環境工学と呼ばれる分野です。

建築・環境学部で建築環境工学を専門とする山口温准教授は、建築物のデザイン的な工夫で屋内を快適することを目標とした研究を行なっています。「今研究を進めているものの一つに、学校施設や保育施設といった子どもが過ごす建築物があります。特に未就学児を預かる保育施設は学校建築に比べてさまざまなタイプの形状があります。既存の建築についての文献調査や屋内環境の実測、さらにはシミュレーションによる環境変化の傾向把握などを行なっています」。

大人向けの建物や学校施設と比べ、未就学児向け施設で快適さを把握するには言葉によるコミュニケーションに頼るわけにはいきません。生まれたばかりの乳児やまだ言語による意思疎通が難しい幼児の生活環境を研究する上では、乳幼児の行動や生活スタイルに合わせて床面に近い位置の気温や子どもが触れる箇所の表面温度などについても考慮することが重要です。

快適さに必要な、変化への許容

大学時代に建築デザインへの理解がなかなか進まず悩んでいた山口でしたが、受講した環境工学の講義で「環境だってデザインできる。建物の良さを決めるのは、心地いい環境だ」という言葉に触れたことがきっかけで環境工学の道へと進み始めます。当時はまだ「いい環境を生み出すにはエネルギーが必要」という考えも根強く残る中、建物の工夫でもっといろんなことができるはず、という思いがだんだん強くなったと振り返ります。

「当時の研究室では先生がどんどん冷房の温度を下げて、私は寒いので温度を上げるという攻防を繰り返していました。『強めの冷房をかけて窓を開けるのが気持ちいいんだ』と話す先生に、なんて無駄なことをするんだろうと思っていましたが、コロナ禍で換気が特に重要視され、実際に冷房をかけながら窓を開けることで、その快適さにも気づきました」。

近頃は、快適な範囲をかっちりと決めすぎずに、ある程度環境の変化を許容することも建物には必要かもしれないと考えています。

健康を支える建築環境を考え続けたい

オフィスビルや住宅、学校施設の屋内環境についてはすでに基準があるものの、乳幼児施設での月齢に合わせた形で環境基準はまだありません。「そもそも年齢に関係なく、日々生活する建物と健康維持の関係はかなり深いものです。この研究では特に、しゃべられないし態度でしか感覚を読み取れないような子どもの快適な生活を、周囲の大人がうまくサポートしてコントロールできるような環境を生み出せる建築を探りたいと思っています。」

大人でも子どもでも健康に暮らせる建築物が実現すれば、生活環境だけでなくもっと大きな環境負荷も低減できるかもしれません。いかに省エネで、いかに快適に生活できる建築物化を追い求めることで、カーボンニュートラルへの貢献もできると考えています。「学生の時からずっと『いい建築ってなんだろう?』と考え続けてきました。自分ができることは多くないかもしれませんが、研究を進めることで変えられる世界があるはず。進めてきた研究の意味・意義を次世代へと繋いでいくために、研究をともに進めてくれる学生たちと一緒にここから何ができるかを考えていきたいです」。続くコロナ禍で、建物内の環境改善を求める声が減ることはないでしょう。大人にも子どもにも快適な屋内環境を探る試みは、まだまだ続きます。

※本記事は2022年9月に作成したものです。