研究報
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特集:接近する世界

4. ロイヤルファミリーの本当の役割。政府の手の届かぬ部分を補うイギリス王室

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INTERVIEW 04 ロイヤルファミリーの本当の役割。政府の手の届かぬ部分を補うイギリス王室
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君塚 直隆 NAOTAKA KIMIZUKA

国際文化学部 比較文化学科 教授

学位:博士(史学)
専門分野:近現代イギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史

イギリスの面白さは「栄枯盛衰」の繰り返しにある

 昨年亡くなったエリザベス女王や、ウィリアム皇太子の妻であるキャサリン妃の話題など、イギリス王室に関するニュースは日本でもよく目にします。ではこの“ロイヤルファミリー”は、社会でどんな役割を担っているのでしょうか。そんな問いに対し、明確な考えを提示するのは国際文化学部教授の君塚直隆です。

 君塚はヨーロッパの政治史を長く研究してきました。特に焦点を当てているのがイギリスです。この国の面白さは、歴史の中で繁栄と衰退の浮き沈みを経験してきたことだと言います。

 「12世紀には繁栄していたイギリスですが、百年戦争(イギリス王家とフランス王家の抗争)を経て15、16世紀には弱小国に。その後、17世紀に革命が起き、現在の立憲君主制の基盤ができると、世界に領土を広げる『大英帝国』の時代となります。しかし2度の世界大戦でふたたび衰退。サッチャーの登場で存在感を取り戻すも、近年は『ブレクジット』と呼ばれる欧州連合離脱を決断。動揺をもたらしました。まさに激動の国といえます」

 その歴史の中で、君塚はイギリスの議会政治が形成される過程や、大英帝国時代の外交における王室の関わりなどを考察してきました。

ロイヤルファミリーは社会にどう貢献しているのか

 長らくイギリスの政治史を見てきた君塚は、この国における王室の役割を「政府の手からこぼれ落ちた社会的弱者を支えること」だと言います。

 「政府は国内の政治から外交、軍事、通商まで、たくさんの問題に対応しなければなりません。特に近年は、コロナ対策やウクライナ侵攻などにも追われている。そのような状況下では、どうしても政府の目が行き届かない問題が出てきます。最たるものが社会的弱者の救済であり、それをフォローしてきたのがイギリス王室です。つまり、王室は政府と相互補完の働きをしているのです」

 実際に、これまで数多くの医療機関や慈善団体が王室によって立ち上げられ、社会的弱者へのチャリティーも行われてきました。「エリザベス女王1人で600もの団体のパトロンを務めていました。いまは20名に満たない一族ですが、支援している団体は約3000に及びます」。それも“形だけ”の支援ではなく、日々たくさんの団体を回って生の声を聞いているのです。

 コロナ禍に入り世界に暗雲が立ち込めた2020年4月には、エリザベス女王から国民にメッセージを発信。およそ2400万人が視聴しました。これも王室の役割の一つ。ヨーロッパでは、身分の高いものはそれ相応の果たすべき責務があるという考えが定着しており、「ノブレス・オブリージュ」と表現されます。まさにその責務を全うしているのです。

SNSで見せる日々の様子も「国民の声を拾う」ことに

 近年行われている王室の新しい取り組みも、その役割を高めることにつながっています。たとえばSNSなどで日々の活動を積極的に発信。「こうしたコミュニケーションによって国民との距離を近くし、小さな声を拾う姿勢を示しています」と君塚は話します。

 また、みずからの活動で“収益”を上げているのも最近の特徴。例年、夏の間は留守にするバッキンガム宮殿を有料で一般公開するほか、王室の図録やグッズなども販売。年間10億円ほど捻出しています。宮殿の公開は、もともと王室のスキャンダルで国民の批判が高まった時期に「苦肉の策」で始めたものでしたが、いまや観光の目玉に。こうした収益活動は、国民の税負担を軽減することにもつながっています。

 これらの話をふまえ、君塚は「イギリス王室のニュースを何となく見るのではなく、社会での役割や立ち位置にまで興味を抱いて欲しい」と言います。そしてそれは「日本の政治や皇室のあり方を考えることにもなる」とのこと。多くの人々、特に若い世代が国の成り立ちや体制に興味を持ち、前向きに議論している。そんな姿になることを望んでいます。

※本記事は2023年7月に作成したものです。