研究報
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特集:社会連携

2.プラスチックの一生を追う理由は?
環境社会学の視点で未来に貢献していく

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INTERVIEW 02 プラスチックの一生を追う理由は?
環境社会学の視点で未来に貢献していく
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湯浅 陽一 YUASA YOICHI

社会学部 現代社会学科 教授

学位:博士(社会学)
専門分野:人文・社会 / 社会学

環境破壊の裏には、それを引き起こす社会の仕組みがある

今まさに世界中で議論されている環境問題ですが、このテーマとつながりのある学問を挙げていくと、気候変動に関連する「気象学」や、生態系に関わる「生物学」、地球のメカニズムや自然現象を探求する「地球科学」など、理系の視点が多い印象です。

しかし一方で、文系の視点も欠かせません。そんな中、環境問題について社会学の視点から考える学問が環境社会学です。「環境破壊は人間の行動が起こすものですが、そのような行動を取ってしまう背景には、そうしないと便利に生活ができないという社会の仕組みがあります。例えば公共交通機関が少ないところでは自動車に乗らずに生活することが難しい場合があります。そうした地域では、CO2を排出するからといって自家用車の使用を控えるわけにはいきません。環境問題は社会の仕組みと一緒に考えることが大切なのです」

この学問の意義をそう説明するのは、社会学部現代社会学科の湯浅陽一教授。近年、湯浅が力を入れているのが、プラスチックに関する研究です。とくに「モノ研究」の視点からの研究に力を入れています。モノ研究とは、バナナやエビを題材にした研究が有名で、例えば日本で売られているバナナが、どこでどう作られ、どのように日本に浸透していったのか。その後どう消費され、人々の生活や意識をどう変えたのか。いわゆるバナナの「ライフサイクル」を追いかける研究です。そして“バナナの一生”を入口に、それを作る途上国と日本の関係を明らかにするなど、さまざまな角度からの分析を行います。湯浅はこの研究をプラスチックという素材に応用し、“素材型モノ研究”として行いました。

プラスチックの一生を追うと何が分かるのか

研究の狙いは大きく二つあります。プラスチックのリサイクルについて議論されることが多い昨今ですが、「本当にプラスチックごみを減らすには製造から考えないといけません」。一つは、この研究により、プラスチックがどのように生み出されるのか、改めて上流から明らかにすることが狙いです。また、プラスチックのリサイクルを見ると、「排出」「収集」「洗浄」「分別」など複数の工程があり、たくさんの企業・機関が関わります。

「リサイクルをスムーズに行い、循環させるには、それぞれの企業・機関がつながり、自社に最適なだけでなく、全体の工程がうまくいくよう協力し合うことが必要です」。そこで、プラスチックのライフサイクル全体を
把握した上で、各企業や機関がうまくつながっている部分と、反対に課題のある部分を明らかにし、「全体でより良いリサイクルのプロセスを考えることにつなげるのがもう一つの狙いです」と話します。

「どこか一箇所だけ進化しても、リサイクルの“環”全体を良くすることはできません。大切なのは共進性(共に進化すること)です。プラスチックのライフサイクルに関わる人や団体が一緒に進化していくことが重要なの
です」

学生が参加し、横浜市との連携で行う研究も

2023年には、プラスチックのリサイクルに関して横浜市との連携で進めている研究も行いました。プラスチックの製造やリサイクルに関わる企業へのインタビューなどを行い、それには授業の一環として学生も参加しました。2024年は、みなとみらいで実施されているペットボトルの回収・リサイクル事業に学生と参加します。回収したペットボトルがリサイクルされる過程について、「関係機関へのインタビューを通して、プロセスの全体像を示す予定です」とのこと。先述のように、自分の関わるプロセスは熟知していても、その他のプロセスは詳しくないケースも多くあります。リサイクルの全体像を明らかにすることで、各機関が自分の関わらないプロセスを知る一助にする他、もしその中に課題が見つかれば、対策を考えたり、関係機関に伝えることが可能になります。

この研究以外にも、湯浅はエネルギーと地域社会、特に近年は環境と関わりの深い「再生エネルギーと地域社会の関係 」をテーマにした研究を行っています。環境問題の重要性は日増しに高まり、学生にとっても必要不可欠な学びになる昨今。環境社会学という切り口で、湯浅はこの問題と向き合い続けます。

※本記事は2024年7月に作成したものです。