研究報
Research Expectations

特集:社会連携
研究報
Research Expectations
特集:社会連携
唐沢 龍也 KARASAWA TATSUYA
経営学部 准教授
学位:博士(経営学)
専門分野:人文・社会 / 商学 / 国際マーケティング
性的マイノリティ(少数者)を示す「LGBTQ」。近年、日本では自らを性的マイノリティだと感じる人が増えており、ある調査では、全体の約1割が自認しているという結果が出たといいます。一方、企業は性的マイノリティの対応に迷うケースも少なくありません。
「理由として、企業の経営者や担当者からは『性的マイノリティの方が周りに少なく、実態が分からない』といった声がよく聞かれます。しかし、調査結果を見ると十人に一人は自認している可能性があり、周りにいない
という感覚にはギャップがあるのです。こうした中で、企業もLGBTQへの理解を深めようとしています」
そう話すのは、国際マーケティングを専門とする経営学部の唐沢龍也准教授です。唐沢は、大手広告会社で国際マーケティングに長年従事した後、大学でこの分野を研究しています。グローバル化が進む昨今ですが、それでも文化や制度といった「国ごとの違い」があります。
それらを理解しないと「企業の国際戦略は成り立ちません」といいます。 その中で近年注目してきたテーマの一つがLGBTQです。主に企業のマーケティング・広告とLGBTQの関係に着目してきました。「性的マイノリティの動向も国ごとに異なります。例えば中国やロシアではその概念が認められておらず、LGBTQ関連の広告や発信も許されていません」。こうした違いを含め、世界の企業の動向を解き明かそうとしています。
実際に行った研究として、唐沢は二つの事例を紹介します。一つ目は、「ビジネス分野で現在どのようなLGBTQの研究がなされているか」についての分析です。
「ビジネスに関連したLGBTQの研究論文について、テキストマイニングという技術で中身を分析しました。分かったこととして、近年はトランスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別と自身の認識する性が一致していない人)に関する研究が増えていること。また、複数の性的マイノリティを対象にする研究が多かったことが挙げられます」
職場環境とLGBTQの関係に着目した研究も多く、従業員への偏見や先入観、賃金による差別の実態のほか、性的マイノリティに対して職場やその外でどう支援するかといった研究も多く見られたとのことです。
二つ目に紹介する研究は、世界のLGBTQ関連のテレビ(動画)広告を分析したものです。「LGBTQ関連の広告は、アメリカやイギリスなど英語圏の国が圧倒的に多いことが分かりました」。その上で、広告の内容を類型化すると、企業やNGOが性に関して苦しんでいる人をサポートするものや、LGBTQの世界的イベントをサポートする企業がその姿勢を発信するものが見られたといいます。「広告に描かれる性的マイノリティはステレオタイプ化されている傾向があるほか、企業がアリバイづくりに“とりあえず”LGBTQ関連の広告を打つケースも増えています。それらはかえって社会から悪い印象を受ける可能性もあるでしょう」
唐沢が望むのは、こうした研究の成果を実際の企業経営に活用してもらうことです。最近は、経営において「DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン:多様性を受容し、公平な機会のもとで働く企業環境や風土を作ること)」が重視されており、LGBTQへの対応もDE&Iにつながります。「企業が人を採用する時、偏見や先入観で判断してしまえば、優秀な人を逃すことにもなりかねません。多様性を理解することが、企業の競争力にもつながるのです」。
加えて、企業のDE&Iが進めば、さまざまな人が働きやすい環境が生まれます。それは誰もが 過ごしや すい 社 会を作ることにもつながるでしょう。「研究は社会を良くするためのものです。実際の経営に私たちの研究を活かしてもらうためにも、経営学部が行っているK-bizをはじめ、企業と共同で活動するケースを増やしていきたいですね」。研究と実務をリンクさせ、企業や社会に役立てる。唐沢が目指すのはその実現です。
※本記事は2024年7月に作成したものです。