研究報
Research Expectations
理工学部 研究ガイド2024
研究報
Research Expectations
理工学部 研究ガイド2024
飯田 博一 IIDA Hirokazu
生命科学コース 教授
東北大学薬学部卒業(薬剤師免許取得)、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程後期修了、博士(人間・環境学)。カナダ・アルバータ大学理学部博士研究員、科学技術振興機構CREST(東京医科歯科大学)博士研究員、徳島大学歯学部助手などを経て現職。
電子レンジは、英語で「Microwave」と呼ばれている。和訳すると「マイクロ波」。つまり、電子レンジは、マイクロ波と呼ばれる電磁波によって、主に水分を振動させることで食品を温めているのだ。生命科学コースの飯田博一教授は、このマイクロ波を医薬品や化粧品の合成に役立てる手法の研究に取り組んでいる。
「担当する生命創薬科学研究室では、『ケミカルバイオロジー』と呼ばれる分野の研究をしています。これは有機化学を基盤とした生命科学の研究です。実験では、医薬品や化粧品の元となる有機化合物の合成を行うのですが、これが、非常に時間がかかる……。この課題を解決するために考えついたのが、マイクロ波によって有機化学のものづくりを時短化する手法の開発でした」
マイクロ波の応用範囲は広く、食品の加熱以外にもマイクロ波通信、マイクロ波治療、マイクロ波分光法など、さまざまな用途がある。マイクロ波を化学反応に用いるマイクロ波化学と呼ばれる研究分野も確立されているという。
「最近、企業の依頼で合成法を開発したのは、トラネキサム酸です。シミやソバカスを取る効果があるので、普段使っているような化粧品の中にも入っています。マイクロ波を使って有機化合物の合成を効率化することは、医薬品や化粧品メーカーにとって、作業的にもコスト的にも大きなメリットがあります。ただし、マイクロ波を使った化学合成の手法は、すべての化合物に適用できるわけではありません。炭素が正六角形をつくっているベンゼンのように安定な構造の化合物には、実は不向きなのです」
薬学部出身の飯田教授は、製薬会社に勤務する両親の影響もあり、高校時代から創薬の研究者を目指していた。そして、研究者になってからは、企業の依頼を受け、新規医薬品の候補となるさまざまな有機化合物の合成に挑み、その過程でマイクロ波化学の手法を確立してきた。
「化学研究は、ゴールに向かって一つひとつ正解を積み上げる楽しさがあります。しかし、その過程は楽ではありません。そこで、できるだけ研究者の負担を減らし、有機化学の実験を楽しんでもらいたいというのが、“化学反応を時短化”するというこの研究のモチベーションになっています。新たな実験手法の開発という側面から、有機化学の力で生命を支える『ケミカルバイオロジー』の発展に貢献できればと思っています」