研究報
Research Expectations
理工学部 研究ガイド2024
研究報
Research Expectations
理工学部 研究ガイド2024
吉川 厚 YOSHIKAWA Atsushi
情報ネット・メディアコース 教授
慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。工学博士。NTTからベンチャー企業に転身し、その間、東京工業大学等の特任教授を歴任。2023年より関東学院大学。「ヒューマンコンピュータインタラクション」等の授業を担当。
「ヒューマンコンピュータインタラクション」という研究分野を知っているだろうか? 簡単に言えば、人間が持つ身体的・心理的な特徴に応じ、より適したコンピュータ技術のあり方を探究する学問領域である。AI(人工知能)を活用したChatGPTが一般化するなど、以前にも増して人間とコンピュータの距離が接近しつつある現代社会。情報ネット・メディアコースの吉川厚教授は、AIが人間にとって本当の意味での“人生のパートナー”になる未来を模索し、研究を続けている。
「大規模言語モデルの発展は著しく、近いうちに人間と対話するAIが登場することは予測していました。そこで、私はAIに対しての『話しやすさ』という側面からアプローチしてみようと考えたのです。人間同士で会話する場合、相手の外見や口調、話題の提示方法などによって話しやすさが大きく変わりますよね。そうしたデータをAIにインプットすることで、より自然な付き合い方ができるのではないかと思いました」
吉川教授が開発したチャットボットは、すでに埼玉県内の歯科医院で試験利用されている。患者用のタブレットに内蔵し、テキストで対話しながら診療に必要な情報を深掘りする仕組みだ。従来のAIは簡潔に返答するが、このチャットボットは意図的に雑談を交えるよう調整されている。
「医師は忙しい仕事なので、患者の余談に付き合っていられないこともあります。しかし、何気ない会話のなかに重要な情報が隠されているケースが多い。家族の既往歴が話題に出れば、そこから遺伝的に薬の相性を読み解くことも可能なわけです。ときにはAIが雑談しながら、なるべく患者に負担をかけずに自由な会話を促します」
AIに親しみやすさを抱いてもらうため、対話相手となるキャラクターの外見的特徴についても研究が進められている。男性であるか女性であるか、若者であるか年配であるか。そうした属性によって話しやすさに差が生じるのかを調査し、利用者の心理的抵抗感の払拭をめざしているのだという。
「こうしたデータは非常に有用ですが、そのまま反映すれば無意味な偏見を再生産してしまうかもしれません。また、キャラクターの見た目によっては心ない言葉を投げかけられる可能性もあります。しかし、それは対等な関係性とは程遠いものです。人間と同じように、AIと世間話ができる。そんな豊かな未来を実現したいと考えています」