研究報
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理工学部 研究ガイド2024

未利用の熱エネルギーを駆使して環境にやさしいインフラを構築する

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辻森 淳 TSUJIMORI Atsushi

先進機械コース 教授

早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。博士(工学)。三菱電機先端技術総合研究所を経て、1999年度から関東学院大学。一般社団法人日本機械学会フェロー。福祉住環境コーディネーター。高圧ガス製造保安責任者。

「温度」とは熱運動の大きさを測る指標のひとつ

機械工学の中に「熱工学」と呼ばれる領域がある。これは熱エネルギーの利用方法やその原理を研究する学問分野だ。先進機械コースの辻森淳教授は、熱工学を専門としている。
「熱や温度を私たちは普段、気にすることはありません。では、温度とは何か答えられる人はいるでしょうか? 熱工学の視点では、温度とは熱運動の大きさを測る指標のひとつです。温度が高いほど、原子や分子の運動エネルギーは大きくなります。熱工学にはさまざまな研究テーマがあります。私が主に取り組んでいるのは、パソコンやスマートフォンなど電子機器の冷却問題、空調機器に用いるエネルギー問題です。いずれも熱エネルギーの制御が研究の軸になっています」
「電子機器の冷却問題」において、解決策となるのが「ループヒートパイプ」だ。これは、電力などを使わずに熱を冷却できる仕組み。ループヒートパイプを知る上で、重要になるのが「毛管力」だ。これは、細い管に入れた液体が、外部からの動力を得ずに移動できる現象を指す。コップの水にティッシュペーパーを入れると自然に水が吸い上げられるのは「毛管力」によるものだ。
「下の図はループヒートパイプを示したものです。液体を含む『多孔質体』の部分に高温になった電子機器を近づけると気体と液体の境界にあたる気液界面ができ、ここに毛管力が発生します。これを推進力として、気体を移動させ、外部で冷却し、液体に戻すループ状の長距離熱輸送デバイスになります。電力がいらないこのデバイスは、高温になった人工衛星の機器を冷却する装置として宇宙開発でも応用されています」

機械の動力源となるエネルギーを扱う面白さ

ループヒートパイプの概念図。毛管力を推進力として、電力なしで熱源を冷却できる

辻森教授は他にも熱エネルギーを用いてエアコンを動かす「吸収冷凍サイクル」システムで特許を取得しているという。こちらも電気を使わず、熱で室内を冷却するという熱工学の高度な知識を駆使した、究めて独自性の高い研究だ。
そんな辻森教授にとって熱工学の魅力は、目に見えない「エネルギー」を扱う機械工学ではユニークな研究分野であること。機械はすべて動力に依存する。その源となるエネルギーの利活用に携わることに大きな使命感を感じているという。
「産業界には未利用の熱資源がまだまだ大量にあります。これらの熱エネルギーを再利用して、環境にやさしく、持続可能な社会インフラの構築に貢献したいと考えています」