研究報
Research Expectations

田植え

特集:SDGs(持続可能な開発目標)

3.現地の人々の安定した暮らしのために役立ちたい

田植え
INTERVIEW 03 現地の人々の安定した暮らしのために役立ちたい
石坂先生1

石坂 貴美 TAKAMI ISHIZAKA

経済学部経済学科 専任講師

学位:博士(国際貢献)
専門分野:開発経済学、国際協力、地域研究

貧困に立ち向かうために必要な「安心」とは

地球上には現在200近い国や地域が存在しています。先進的に発展を遂げた国もあれば、これから発展を遂げようとする国など、置かれている状況は様々です。中でも、いわゆる途上国と呼ばれる地域は、地理的環境や気候などが厳しい場所も多く、貧困や健康福祉など様々な問題を抱えています。また、人々の生活を守る社会保障制度についても、未整備であることが珍しくありません。経済学部の石坂貴美専任講師は、開発途上国に住む人々のもしもの時を守る「セーフティ・ネット」について、アジア圏内でのフィールドワークを積み上げた研究を行なっています。

「いくら頑張って所得を得られるようになったとしても、社会保障なしの状態で家族の誰かに病気や怪我などがあれば、仕事も所得もあっという間に失います。かといって財政状況が厳しい国では、社会保障制度を保つこと自体が困難です。現在の途上国では、民間組織などが低所得者や女性向けに少額の金融サービスなどを提供する『マイクロファイナンス』というものが浸透しつつあります。融資や貯蓄、保険といったマイクロファイナンスサービスが持つ有効性やリスクについて現地に出向いて調査を行い、さらにサービス提供側にフィードバックしています」。

直面することから始まった研究活動

元々は国際協力に興味がなかったという石坂専任講師ですが、大学卒業後に訪れたアフリカでの経験がきっかけで「貧困」と向き合うようになります。

「貧困って『学校がない』『医者がいない』だけの問題ではありません。学校があっても家の仕事の手伝いで行くことができない、医者がいてもお金がなくて診療してもらえない。社会システムが関わる根深い問題だと知りました」。

自分の力で貢献できるようになりたいと、染織の技術を習得し青年海外協力隊としてバングラデシュへ行くことになります。しかし、たとえ現地で仕事を生み出したとしても、所得を守る仕組みがなければ一瞬で貧困状態へと戻ってしまう可能性は高いままです。
「そこで途上国の課題について勉強し、現地の人々の安定した暮らしのために役立ちたいと思い立ち、セーフティ・ネットについて研究をするようになりました」。

アジアの国々の社会保障制度について調査すると同時に、再び長期にわたりバングラデシュに滞在して現地の事情を調査するようになったといいます。

「バングラデシュでは国の健康保険制度がないために高額医療費によって貧困に陥る問題をとりあげ、マイクロファイナンスの医療保険の実態を調べました。融資を中心に広く普及しているマイクロファイナンスですが、マイクロ医療保険を提供する機関はごくわずかで、その補償も十分でないことがわかりました。一方で人々のニーズは高く、今後徐々に普及していく可能性があることをサービス提供者へ伝え、改善策について協議し、サービス向上へつなげました。この他、私が青年海外協力隊員として関わった職業訓練校の卒業生たちが自営業者となり、立ち上げた組合に互助会のような助け合いの仕組みを構築したり、農村では伝統的な相互扶助の再生の可能性を探したりしました」。

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知ることから始まる国際協力

2000年に国連で採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)では、途上国の抱える問題解決に向けて先進国から支援が行われてきました。

近年MDGsがSDGsへとアップデートされたことで、いろいろな変化が生じていると石坂専任講師は考えます。「MDGsは、国際協力や貧困問題に関心ある人のみが知る目標でした。それがSDGsになったことで、国内企業や政府の動きが大きく目に見えるようになったのは良い流れだと思います。学生たちには自国の目標達成状況のみでなく、途上国の目標達成のためにどのような国際協力を行うべきか、自分にできることはないかという点にも関心を寄せてもらいたいと思います」。

地球規模で起こる問題解決に向けた第一歩は、まず関心を持つことから始まります。

「大学の講義やゼミナールではこれまでの途上国での経験を学生たちへ紹介しつつ、一緒に問題解決に取り組む実践も行っています」。

公正な取引を通じて途上国の人々の暮らしを支援する貿易

※本記事は2019年7月に作成したものです。