研究報
Research Expectations

特集:新しい生活様式

4. 慢性疾患だからこそ、 行動を継続してもらうための 支援がしたかった

INTERVIEW 04 慢性疾患だからこそ、 行動を継続してもらうための 支援がしたかった

飯尾 美沙 MISA IIO

看護学部 看護学科 講師

学位:博士(人間科学)
専門分野:小児看護学、健康心理学

病気とともにある地道な生活を、長い間支えたい

症状の増悪を繰り返し、長期にわたる治療や管理が必要な疾病をまとめて「慢性疾患」と呼びます。中でも喘息などのアレルギー疾患は幼少期から罹患する人も少なくありませんが、小児慢性疾患の治療には周囲の大人のサポートも欠かせません。看護学部講師の飯尾美沙は、小児看護の見地から、慢性疾患の中でも特にアレルギー疾患を抱える子どもとその家族を対象にした、毎日の投薬・服薬や症状の維持・改善に向けた生活行動の支援を研究しています。「慢性疾患は長きにわたって地道な治療を続ける必要があります。もちろん、医師や看護師だけでは対処しきれない部分もたくさん出てきます。そこで、昨今利用者が増えているスマホなどのデジタル端末を利用して、生活の中で治療や管理行動の継続に向けた支援ができるアプリを開発しています」。
研究のきっかけは、看護師時代に抱いたある思いでした。「何度も入院を繰り返すお子さんと親御さんに対して、毎回その場でパンフレットを渡して教育するだけでいいのだろうか、という思いを強く持つようになりました。どれだけ教育しても行動が続かないと意味がありません。慢性疾患だからこそ、行動を継続してもらうための支援がしたかったんです」と、飯尾は振り返ります。

日々の努力を、その場で応援するために

いま力を入れている研究は、慢性疾患を抱える子どもや保護者を支援するスマートフォン用アプリの開発です。実際に患児や保護者に体験してもらい、利用者から得られたフィードバックを元に修正するというサイクルで開発を進めています。スマホの普及前はタッチパネル式パソコンを用いて、開発した専用ソフトを患児・保護者に利用してもらう形で研究をしていたと、飯尾は振り返ります。通院時に専用ソフトを利用して、「薬を忘れてしまうのはなぜだろう?行動が続かないのはなぜだろう?」といった自身の行動の振り返りやそれに対するアドバイスを行います。また、入力されたデータはその場でレーダーチャートに可視化してアドバイスとともに印刷して利用者に提供していました。
当時のソフトで得られた知見は、開発中のスマートフォン用アプリに引き継がれています。タッチパネル式パソコンは通院時にしか使えず、家にいる間は結局子どもや保護者の意識任せになってしまうのが弱点でした。スマホを用いることで、いつでもどこでも日常的に継続して使うことができるのは大きなメリットだと、飯尾は続けます。「慢性疾患は継続して地道に薬を使い続けなければ効果が出ません。なので、少し効果が出たところで油断してはいけません。
『継続』という地道な行動に細やかなフィードバックを行うことで、お子さんや親御さんがより治療に対して前向きになれると思っています」。日々アプリを使うことで、日常の様子がデータとして端末に蓄積されます。通院時には見ることのできない普段の様子を医師や看護師と共有できる点もアプリの大きな強みとなっています。

直接寄り添うだけが、看護ではない

日々の行動や生活習慣、服薬の状況を気にしながら長期間にわたって症状のコントロールをし続けないといけない慢性疾患にとって、ストレスとの関係も無視できません。病気に伴うストレスだけでなく、日常に感じるストレスが症状を悪化させることもあります。ストレスという言葉は知っているけど、具体的に何がストレスかを知らない人は、子どもに限らずたくさんいます。ストレスを知って対処方法を自分なりに考えられるようになるにはどうしたらいいか、『ストレスマネジメント』を支援するツールも作って、アプリに反映させています。
自分の健康状態は体調が良い時ほど省みることが少ないものの、日々の自己管理が健康維持に重要であることは疑いようもありません。「看護と聞くと直接的な支援というイメージが強いかもしれませんが、直接的に寄り添うケアばかりではないと思っています。病院では見えない日常生活を「研究」という形でサポートすることで、日々病気と向き合うお子さんと親御さんの豊かな生活につながれば良いなと、願っています」。