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特集:ダイバーシティ

2.多様性に逆行してきた宗教が、これからの時代に目指す姿を考える。

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INTERVIEW 02 多様性に逆行してきた宗教が、これからの時代に目指す姿を考える。
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髙井 啓介 TAKAI KEISUKE

国際文化学部比較文化学科 准教授

学位:Ph.D.
専門分野:人文社会/キリスト教学・宗教学

教えから外れる人を排除してきた宗教の歴史

長い歴史を持ち、国家の関係にも影響を与えてきたキリスト教。時代が移ろう中で、そのあり方や聖書への解釈は変わっているといいます。そういった変遷を研究しているのが、国際文化学部准教授の髙井啓介。関東学院大学の大学宗教主事も務めています。

「たとえば、19世紀にオスカー・ワイルドが発表した戯曲『サロメ』は、新約聖書に登場する女性サロメを題材にした物語で人気を博しました。しかし、もともと聖書では、その女性に名はなかったのです。ある時期からサロメという名で浸透し、大正時代には日本でも好まれる演劇となりました」

こういった研究のかたわらで、髙井は、近年重要なテーマとなっている多様性と宗教の関係も考えてきました。「歴史を見ると、宗教は多様性を抑圧する装置として存在してきたのではないでしょうか」と、私見を述べます。

「宗教は、多くの民をひとつの道に収れんさせる装置の面もあったといえます。だからこそ、教えから外れる人を排除してきた。キリスト教も同様で、正統派や異端派、あるいは、プロテスタントやカトリックといった分離の歴史につながっているといえます」

今のアメリカにも残る、多様性に対する拒絶反応

多様性を拒む面は「今のキリスト教にも残っている」と髙井は考えます。たとえばアメリカでは、人工妊娠中絶や同性婚に対する反対が依然強く、その中心はアメリカ南部を主とした保守派のキリスト教信者といわれます。「聖書では同性愛などを恥ずべき対象としており、その教えを守ろうとする人が多い」と指摘します。

「しかし、多様性の排除が本当にイエス・キリストの考えとは言い切れません。聖書の中にも、キリスト教を人の体にたとえて、さまざまな役割を持つ部分が合わさってひとつの体になると述べるなど、多様性を尊重する箇所も見受けられるのです」

さらに、イエスの生涯や言行を記録した福音書を読むと、当時のユダヤ教の価値観の中でイエスが差別的に扱われる人に手を差し伸べた場面もあるといいます。「そのような行動が危険視され、イエス自身も排除されたのかもしれません。本来は、多様性の精神を持っていたのではないでしょうか」。

しかし、他の思想と競争する中で「信仰の一致」が必要になり、排除の歴史になったとも考えられます。

外国の文化を取り込む日本。そして、これからの宗教

ちなみに多様性と宗教の観点では、日本は興味深い国のようです。キリスト教を弾圧する時期もありつつ、一方で「独自の取り入れ方をしました」とのこと。

「一例が賛美歌の扱いです。キリスト教の賛美歌は明治時代辺りに日本へ入りますが、メロディーはそのままに歌詞を変える曲が相次ぎました。童謡の『むすんでひらいて』も、もともと賛美歌でしたが、日本で唱歌や軍歌に変わり、そして今や誰もが知る童謡になったのです」

同時期にアジア太平洋諸国で広まった賛美歌ですが、このようなアレンジをした国は珍しいとのこと。「仏教と神道の融合もそうですが、日本は外国の宗教や文化を取り込むのが上手といえます」。

そんな話をふまえて、髙井はこれからのキリスト教と多様性の関係について意見を述べます。

「キリスト教が多様性を排除する一面があったのなら、今後はそれを崩すことを語るべきだと考えています。イエスは当時、つねに新しい考えを投げかけていたはず。自分の教えが多様性を抑圧することは望んでいなかったのではないでしょうか」

人々を抑圧するものではなく、多様性を受け容れるものとして。キリスト教の歴史と変遷を研究する髙井は、これからのキリスト教の姿も模索していきます。

※本記事は2021年9月に作成したものです。