研究報
Research Expectations
特集:ダイバーシティ
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Research Expectations
特集:ダイバーシティ
角田 麻里 KAKUTA MARI
国際文化学部英語文化学科 専任講師
学位:博士(教育学)
専門分野:異文化コミュニケーション、社会言語学
ろう者のコミュニケーション方法である「手話」。実は手話にも、国や地域の違い、あるいは育った環境による使い方の違いがあります。それらを研究テーマに据えているのが、国際文化学部専任講師の角田麻里です。
「方言のように、手話も地域ごとに表現が変わるケースがあります。たとえば『水』を表す手話は、東京と大阪で異なる表現になるのが一般的。また、両親が聴者かどうかなど、家庭環境によっても使う手話は変わります」
もし、両親も生まれつきろう、子どもも同じであった場合、多くは「日本手話」という手話言語を習得します。日本手話を使う人は「ろう者」と呼ばれることが多いといいます。
「日本手話の特徴は、音声言語の日本語と文法体系が大きく異なる点です。一例として、日本手話は眉を上げると疑問形になるなど、顔の表情が文法に関連します」
一方、両親が聴者で、子どもはろうの場合、音声言語の日本語文法を土台に、手話表現を組み合わせた形が増えます。日本手話とは大きく異なるもので、手話にもいろいろな種類が存在するのです。
角田が手話に興味を持ったのは、大学4年生の時。言語学の授業で手話に触れた時でした。
「私は帰国子女だったこともあり、自分が他の人と違うのではないかと何度も疑問を抱きました。手話を使う方と接したとき、もしかすると似た感覚を抱いているのではないかと。それが手話研究に進んだきっかけかもしれません」
そうして今は、手話の分析を行っています。最近は、ビデオ通話機能を利用して、ろう者の手話をオペレーターが通訳し公共機関などに伝えるサービスも生まれていますが、上述の通り、手話といってもいろんな言語があります。その中でどういった手話通訳を準備するのが適切なのか、ろう者へのアンケートなどから考えています。
「こういった研究で重要なのは、当事者であるろう者に広く協力していただくことです。手話研究の多くは、聴者が主導で行われており、当事者視点が失われる可能性があります」
ただし、ろう者が自分の発言を手話で伝える際、それを誰かが通訳するという過程が生じます。加えて、日本手話の使い手は、音声言語の文法と異なる言語に親しんでいるため、日本語の読み書きに自信のない人も多いそうです。読み書きは音声言語の文法だからです。「こういったことが参加を遠ざけている部分もあるので、当事者が参加しやすい環境づくりについても考えなければなりません」
一方、研究をする中で、すべての人が小さい頃から手話を使う人とコミュニケーションを取る機会を作ってほしいと角田は考えます。
「日本にいると、言葉が通じなくて困ることは少ないでしょう。そのため、言葉が通じない相手の立場を思いやったり、気遣ったりすることに慣れていません。重要なのは経験を積むこと。それにより、相手が何に困っているのか、どう伝えようとしているのか、想像する力が養われるのではないでしょうか」
角田は、ろう者と学生がコミュニケーションを取る授業も行っています。こういった機会を小さい頃から作れば、コミュニケーションがうまくいかなかったとき、相手に不満を抱くのではなく、ろうの可能性や外国で育った可能性など、背景を想像する力が備わります。それは「人間性や視野の広さにもつながると思います」といいます。
音声言語と同じく、多種多様に発展してきた手話の世界。その研究や授業は、人が人を思いやる社会につながっていくかもしれません。
※本記事は2021年9月に作成したものです。