研究報
Research Expectations

特集:社会連携
研究報
Research Expectations
特集:社会連携
2050年問題が叫ばれるなか、SDGsを皮切りにゼロ・エミッション、Society5.0など世界では様々な指標が掲げられています。目まぐるしいスピードでこれまでのあたりまえが大きく変化し、アップデートされ続けていく昨今。私たちは、異常気象や環境破壊など社会全体で取り組まなければ解決できないような数多くの課題に直面しています。
持続可能な世界を実現するための第一歩として、私たちが生活している社会の中で何が問題となっているのかを知りそれらの問題をどう解決していくことができるかを考えなくてはいけません。誰かがやってくれるのを待つのではなく、私たち一人ひとりが自分たちにできることを考えることで明日を
少しずつ変え、未来につなげていくことができるのではないでしょうか。
大学をはじめとする、企業、自治体などの各機関は、持続可能な社会を築くため課題解決に向けた取り組みを始めています。さらには、一つの分野からのアプローチでは解決できないと思っていた課題に対しても異なる専門分野の研究者たちや実践的なノウハウや経験を持つ実務者が協働し多角的な視点が加わることで解決できる可能性が広がります。
関東学院大学の研究者たちは、自分たちが社会のために何ができるかを常に考え、それぞれの専門領域の知識を課題解決に活かすべく日々研究を行っています。研究者たちが見据える「より良い社会」、その実現を目指す研究者たちの一端をご紹介します。
髙橋 聡 TAKAHASHI SATOSHI
理工学部情報ネット・メデイアコース淮教授
学位:博士(工学)
専門分野:Agent Based Model/集団学習
ある時はシミュレーションとマンガを活用した教育の研究に取り組み、ある時は新しい「大 学ランキング」を検 証 する。またある時は、キャッシュレス化で現金が使われなくなる中、お金を支払う・受け取る実感をどう生み出すか考える――。このように、社会のさまざまなテーマを研究対象としてきたのが、理工学部 情報ネット・メディアコースの髙橋聡准教授です。
髙橋は、修士課程で「シミュレーション」の研究を行ってきました。社会の現象をモデル化し、パソコン上で再現するもので、自動車の渋滞や、企業における組織の動きをシミュレーションするなどが一例です。その後、博士課程では、マンガを教材とした教育を研究テーマに据えました。これらを組み合わせたのが、冒頭に挙げ た「シミュレーションとマンガを活用した教育の研究」です。
この研究の一つとして、大学のデータ解析の講義でシミュレーションとマンガを使った授業を実践しました。まずシミュレーションについて、データ解析を学ぶにはリアルなデータが必要です。例えば店舗なら、時間帯ごとの売上や顧客の年齢層など。しかしこれらは企業や店舗が保有しており、授業用に提供してもらうのは容易ではありません。そこで架空の店舗の売上データをシミュレーションで導き出しました。
次にマンガの活用です。データ解析を学ぶ上では、「数字を見るだけでなく、現場で何が起きているかを観察し、そこから作った仮説とデータを突き合わせることが重要です」と髙橋。例として、来店したが何も買わない顧客が多数いることはデータで分かっても、欲しいものが無かったのか、元々買うつもりがなかったのか、理由までははっきりしないケースがあります。現場を観察し、人の行動を見ると、買わない理由の仮説を立てることができ、データをより深く検証することにつながります。
とはいえ、シミュレーションで作った「架空の店舗」では、現場を観察することはできません。そこで髙橋は、この店舗に訪れる人の動機などを描いたマンガを用意し、それを見ながらデータ解析を行う形を構築して
います。「もともとマンガは教育に長く使われてきました。言語の壁を超えて絵で理解できるので、手洗いやうがいといった 公衆衛生など、万国共通で必要な知識を学ぶツールにもよく使われています」。マンガを使った
教育理論を突き詰め、社会で活用されていくことを望みます。
この他に行っているのが、新しい「大学ランキング」の検証です。一般的な大学ランキングは、模試のデータを基に算出されています。しかし近年は、いわゆる“年内入試”の増加により、模試を受ける学生が減少してきました。「こうした中で、模試のデータを使わず、高校の合格実績と大学の入学実績を統計学で分析して新たなランキングを作ろうとしています」。
この取り組みは、髙橋が実現したい大きな構想の一部といえます。「私が行いたいのは、小学校、中学校、高校、大学において、各教育機関で学生がどれだけ成長しているかをデータ解析から明らかにすることです」。
その結果、仮に3年間で学生が大きく成長している学校が分かれば、「そこで行っている教育を他校に展開し、全体の教育の質を向上させられる可能性がありますよね」。さらにこうした研究は、入試をはじめ、能力を測る
試験の改善にもつながると考えています。
髙橋の研究領域はこれだけにとどまりません。キャッシュレス化が進む中、『お金を支払う際の物理的な感覚をどう生み出すか』の共同研究を行っているとのこと。目的は、現金を出すことがないが故に支払い能力を超えた 高 額 商 品を買ってしまうケースを減らし、「気持ちの良い買い物を増やすこと」と言います。また、子どもが金銭感覚を身に付けずに育ったり、親のスマホで勝手に何かを購入してしまったりというリスクへの対策でもあります。
研究テーマは多様ですが、共通するのは社会の実態を追及するということ。研究を世の中に還元できるよう、これからも成果を積み重ねていきます。
※本記事は2024年7月に作成したものです。