研究報
Research Expectations

KGU_College-of-Science&Emgineering_2023_h1

理工学部 研究ガイド2023

食品添加物の複合的な影響を培養細胞で検証する

KGU_College-of-Science&Emgineering_2023_h1
INTERVIEW 01 食品添加物の複合的な影響を培養細胞で検証する
7_onoue_1

尾之上 さくら  ONOUE SAKURA

理工学部 生命科学コース 教授

北里大学衛生学部衛生技術学科卒業。日本歯科大学歯学部にて博士号(歯学)を取得。理化学研究所、東京大学医科学研究所での研究員を経て、現職。

動物由来の培養細胞を使って食品由来成分の影響を調べる

私たちが日々、口にしている加工食品には、着色料や保存料などの食品添加物が少なからず使われている。食品添加物は、人の健康を損なう恐れのない場合に限り、成分の規格や使用基準が定められ、使用が認められている。生命科学コースの尾之上さくら教授は、食品添加物が神経細胞に与える影響について調べている。

「私が担当する細胞生物学研究室では、動物由来の培養細胞を使って、食品由来成分の影響について研究しています。食品添加物の研究もそのひとつです。食品、飲料、歯磨き粉、化粧品などに使われている食品添加物は、食品の安全性、味や食感の維持・改善において有用です。一方で、食品添加物の基準は単独で使用した場合であり、複数の食品添加物を同時に摂取した場合を想定して安全基準を定めることは困難です。この点を考慮して、食品添加物の複合影響が注目されていますが、それらの研究は少ないです」

この実験では、ヒト小児由来神経芽細胞腫細胞(NB-1細胞)を神経細胞様に分化誘導して使用している。分化した細胞は、細胞体から多数の突起を伸長し、突起を介して細胞と細胞が接しており、まるで神経細胞のような形態を示す。この細胞に複数の食品添加物を加え、培養し、細胞の形態学的変化を電子顕微鏡で観察する。使用する食品添加物は、甘味料、着色料、保存料、発色剤などだ。

「特定の食品添加物では、単独で添加した場合よりも混合して添加した場合に細胞への影響が大きくなります。具体的には、細胞増殖の抑制や細胞突起の伸長阻害がみられるようになります。これらの影響は、細胞小器官のミトコンドリアや小胞体がダメージを受けている可能性が考えられます」

食品添加物ががん細胞の増殖を抑制する!?

蛍光顕微鏡で見た牛肺動脈内皮細胞

尾之上教授の目的は、食品由来成分による生体影響を明らかにし、有用な成分を見つけ出すことである。現在、食品添加物と培養細胞を使ったユニークな実験も検討中である。
「これまでの発想を転換して、食品添加物によるがん細胞の増殖抑制効果を検討し、そのメカニズムを解析したいと考えています」
ゴールは人々の健康を守ること。人の役に立つ研究を目指している。研究テーマとして、肥満細胞を用いた食品中の抗アレルギー成分の探索や、免疫担当細胞を使用した乳酸菌由来の免疫活性化物質の研究なども行っている。この研究室から保健機能食品や医薬品の開発につながるヒントが生まれるかもしれない。