研究報
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特集:日々の生活を支えるインフラ

2. 必要なのはスマートシュリンク今の暮らしを維持するために必要な「縮小」とは?

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INTERVIEW 02 必要なのはスマートシュリンク
今の暮らしを維持するために必要な「縮小」とは?
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豊田 奈穂 TOYODA NAO

経済学部 経済学科 准教授

学位:博士(経済学)
専門分野:人文・社会 / 公共経済

手を打たないと、住民一人当たりの負担が増していく

全国各地で、水道や道路などの老朽化が進んでいます。それらが原因となった事故も発生しました。こうした中で「私たちは、都市や地域のあり方を考え直さなければなりません」と話すのは、経済学部の豊田奈穂准教授です。

「日本はこれまで、人口が増える前提でまちづくりを行ってきました。しかし今後は、確実に人口が減少していきます。今まで通りのやり方で地域のインフラを維持するのは難しいでしょう」

人口が少なくなる中で、これまでと同じように地域の機能を保とうとすれば、住民一人当たりが負担する費用は増していきます。いずれ「まかないきれなくなる」可能性も否定できません。

その中では、都市インフラを特定のエリアに集積させ、維持・管理が必要な範囲を小さくするなどの対策が求められます。コンパクトシティやスマートシュリンク(賢い縮小)と呼ばれる考え方です。豊田は、これらに関連して、地域施設の立地のあり方などを研究しています。

これから必要なのは「都市ごとの役割分担」

スマートシュリンクを実現するには、主要な都市機能を地域の中心部に集め、住民の生活圏をまとめていく必要があります。 これを進める上で、重要なのが「地域ごとに役割を分担する」という考え方です。「これまでのように、1つの地域にすべての機能を備えるのではなく、この都市にはこの機能、別の都市には他の機能と、エリアによって役割を変えるのです。隣接する横浜と横須賀に同じような機能を有する大型の公共施設
を作らない、と言えばイメージしやすいでしょうか」。

もちろん、スマートシュリンクの取り組みを進めるのは簡単ではありません。すでに住民と話し合いを行っている地域もありますが、住む場所や暮らしが変わるからこそ、理解してもらうには大きなハードルがあります。

「何より難しいのは、『負の分配』をしなければならないことです。つまり、どこに住むとしても、一人一人が何かのマイナスを受け入れなければなりません。こちらの都市に住むなら病院は遠くなるとか、今のサービスを維持したいならその分、高い税金を支払う、ということが起きますから」

あわせて、いざ取り組みを始めたら10年、20年という長い時間がかかります。これも難しさにつながるでしょう。それでも、人口が減っていく日本では、人々の生活を維持するためにこうした都市作りに移行しなければなりません。そんな強い思いが、豊田の言葉の裏にあるのです。

「定住促進施策」はかえって逆効果になっている?

コンパクトシティの成功例としてよく知られている地域もあります。富山市はその代表。住民の賛否もありながら、長きにわたり政策を続けました。「市の中心部の施設に集中して投資し、そのエリアに移り住む人を増やす取り組みを進めてきました。集積することで中心部の価値が高まり、土地や建物から得られる固定資産税も上がれば、その分を周辺の公共サービスに充てていくことも可能になります」。

繰り返しになりますが、こうした施策は住民の理解がポイントになります。たとえば、身近な施設の再編をどう納得してもらえるか。そこで豊田は、人々が地域のどんな政策をもとに居住地を選択しているかについて
も研究しています。

「各地で移住促進施策が行われていますが、必ずしも効果が大きくないことがわかっています。移住をPRすることで、かえって人口が増えないマイナスの印象を与えてしまうからです。それよりは、地域内の生活環境を充実させること、たとえば子育て世代なら、保育所や学校教育の充実が移住につながると考えています」

コロナ禍では、都心への人の流れが一時的に変化しました。郊外に移住することへの関心が高まったとも言われています。もしその意向が今後も続けば、スマートシュリンクとは逆行することに。そこで豊田は、人々の郊外への移住希望が高まっているのか、都市機能の集約化は嫌われるのかを分析中です。人口が減少しても幸せな未来を目指して。豊田はこれからも、現実的な視点で都市のあり方を見つめます。

※本記事は2025年7月に作成したものです。