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理工学部 研究ガイド

緻密なシミュレーションで被害を予測し、災害に強くてしなやかな社会を目指す

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INTERVIEW 08 緻密なシミュレーションで被害を予測し、災害に強くてしなやかな社会を目指す
torisawa

鳥澤 一晃 KAZUAKI TORISAWA

理工学部 土木・都市防災コース 准教授

鹿島建設株式会社技術研究所都市防災・風環境グループ上席研究員を経て、現職。自然災害による構造物群の被害や社会システムへの影響を予測する研究に取り組んでいる。

都市のインフラを支える「土木工学」の研究分野

道路、鉄道、橋、トンネル、ダム、水道……。都市を支えるインフラの構築・整備のすべてに関わっているのが、「土木工学」と呼ばれる分野だ。自然災害に備えて都市の防災・減災を実現するため、現地調査、大型実験、模型実験、数値シミュレーションなどの方法で、研究が行われる。鳥澤一晃准教授は、主に数値シミュレーションを用いて、自然災害による構造物・ネットワークの被害やそれに伴う社会への影響を予測する研究に取り組んでいる。
「自然災害の対策を検討するには、大きく分けて4つのステップがあります。まず初めに災害外力を予測し、次に構造物やネットワークの被害を予測します。私が研究しているのは、さらにその先のステップです。道路などのインフラが壊れることによって、社会システムにはどんな影響が生じるのか。また、その影響をできるだけ減らすには、どんな対策が効果的なのか。過去の被害データに基づく予測モデルを用いたシミュレーションで、より合理的な災害対策を打つことができるようになります」
災害時の社会システムへの影響として、物流の途絶やサプライチェーンの寸断が挙げられる。
「東日本大震災など想定外の災害も経験して、近年は被害が生じてもできるだけ早く復旧する、強くてしなやかな構造物やシステムが求められるようになっています。道路の被害で考えるなら、物理的な損傷がどの程度生じるかといったことに加えて、損傷を修復して機能を回復するには何日かかるのかを予測することが重要です。これは道路被害による物流の途絶についても同様です。例えば、A工場からB工場へ原料を運んで製品を生産する場合、地震後に原料の調達が滞れば、その分、生産量も減ることになります。私はモンテカルロ・シミュレーション*という方法で、道路の被害個所と復旧日数の組合せを数千パターン計算し、その結果から道路の復旧に基づく輸送可能量の回復推移を定量的に求めました」

*モンテカルロ・シミュレーション=乱数を用いて数値計算を行うシミュレーション手法

道路機能支障確率を考慮した道路ネットワークの解析結果例

シミュレーションに基づくリスクマネジメント

また、鳥澤准教授はそれらの解析結果を踏まえ、対策に必要なコストと低減リスクの関係についてもシミュレーションを行っている。
「東日本大震災では、東北地方の部品工場の被害が波及して、日本全国のメーカーに大きな影響を与えました。地震時のサプライチェーンの寸断に対しては、原料の分散調達、在庫の積み増し、エ場の耐震補強などさまざまな対策が考えられますが、その中から合理的な対策を選択するためのリスクマネジメント手法についても構築してきました」
大手ゼネコンの技術研究所で20年間、防災・減災の研究に携わってきた鳥澤准教授。活躍の場を関東学院大学に移し、「災害に対して強くてしなやかな社会」を目指した研究と教育に全力を注いでいる。