研究報
Research Expectations

理工学部 研究ガイド2025
研究報
Research Expectations
理工学部 研究ガイド2025
新家 弘也 ARAIE Hiroya
生命科学コース 講師
筑波大学大学院環境科学研究科環境科学専攻博士前期課程修了、筑波大学大学院生命環境科学研究科情報生物科学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。筑波大学生命環境系助教を経て、現職。「植物生態学」「藻類利用学」などの授業を担当
日本の産業界では、政府が掲げる「2050年までにカーボンニュートラルを実現する」という目標実現に向けて、さまざまな事業が行われている。生命科学コースの新家弘也講師が取り組む研究もそのひとつ。研究対象は、「ハプト藻」と呼ばれる藻類の一種だ。植物プランクトンである藻類が切り拓くカーボンニュートラルの未来像とはどのようなものなのだろうか。
「地球の一次生産者である藻類は、光合成によりCO2から物質をつくり出す持続可能な原料として注目されています。私は世界中で5種のハプト藻だけが合成できるアルケノンという脂質に着目し、バイオ燃料として活用する方法を模索しています。陸上の植物と比べ、海中の生物は先行研究が少なく、分野としてブルーオーシャンであるため、この研究に着手しました」
新家講師は、アルケノンを合成できるハプト藻を培養し、バイオ燃料となるオイルの生成に適した突然変異株を創出する実験を行っている。そこに用いるのが「重イオンビーム」。放射線の一種である重イオンビームを培養したハプト藻に照射し、より多くアルケノンが蓄積する株をつくり出すのが目的だ。
「これは放射線育種と呼ばれる手法で、創出したアルケノン高産生株を解析することで、ハプト藻のどの遺伝子がアルケノン増産に関与しているかを調べることができます。その上で、原因遺伝子を人工的に制御できる株を創出し、その大量培養を目指します。アルケノンの増産を実現できれば、社会実装への第一歩となるでしょう」
ハプト藻を研究する過程で、新たなテーマも生まれている。そのひとつが、「環境サンプルからのアルケノン生産種単離・同定」の技術開発だ。これは海水や海底堆積物などの環境サンプルを培養し、アルケノンを生産する藻類だけを単離し、その種類を突き止める技術のことを指す。
「アルケノンを合成できる藻類は、海水と汽水域からしか見つかっていません。しかし、淡水域にもアルケノンは存在しており、何者かが合成している可能性があります。淡水域からアルケノン生産種を単離できれば、世界初の発見となります」
ハプト藻に関する幅広い研究を通して、新家講師が目指すのは、アルケノンを大量に生産できる技術の確立だ。その先に藻類からバイオ燃料をつくり出し、カーボンニュートラル実現に貢献する未来像が見えてくる。