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理工学部 研究ガイド2022

電力ケーブルの劣化メカニズムを解明しエネルギー利用の未来を支えたい

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INTERVIEW 07 電力ケーブルの劣化メカニズムを解明しエネルギー利用の未来を支えたい
220106-15 - コピー

植原 弘明 HIROAKI UEHARA

理工学部 電気・電子コース 教授

明治大学大学院理工学研究科電気工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。2000年関東学院大学着任。「電磁気学」「電気・電子計測」などの授業を担当。

電力ケーブルの絶縁材料に発生するトリーイング劣化

皆さんが日々使っているスマートフォンやパソコンの電子基板には、プラスチック材料が使用されている。電気を流す導線だけで電子回路を構成することはできず、電気を流さない部分が必要なためだ。このプラスチック材料がいわゆる絶縁体。電気を通さない素材で、電力ケーブルの絶縁材料には、ポリエチレン(PE)などが用いられている。
電力ケーブルは、社会インフラを支える重要な存在だ。これが不具合を起こせば、社会生活にも影響が出る。電気・電子コースの植原弘明教授の研究テーマのひとつは、電力ケーブルに使用されている絶縁材料の劣化に関するものだ。「電力ケーブルの導体部分に電極不整(突起状のささくれ)や金属の異物や気泡、線維などが混入した場合にプラスチック材料に高電圧がかかると木の根っこ状の劣化『電気トリー』が発生します。
この現象は『トリーイング劣化』と呼ばれています。そこで私は、プラスチック絶縁材料に特定の化合物を添加して、トリーイング劣化を抑えることができないかを模索しています」
植原教授の主な研究対象は、地中送電に用いる電力ケーブルだ。ここでは、プラスチック絶縁材料に水と高電圧が作用し、特有の劣化現象が起こることが問題視されている。この水と高電圧に起因する劣化は、「水トリー」と呼ばれ、そのメカニズムは十分に解明されていない。周囲の温度、電圧の波形がどのように劣化に関係するのかなど、明らかにすべき課題は山積みだ。

水と高電圧によって絶縁材料に現れる「水トリー」のサンプル

電気工学、化学、物理学の知見を融合し課題を解決する

「パワーエレクトロニクスの発達によって、水トリーの発生・進展が加速している可能性があります。直流から交流に変換する『インバータ』は、省エネ効果を高める方法として採用が進んでいますが、電圧が通常の2倍になったり、波形が不安定になったりします。これが水トリーの発生・進展に関与している可能性があります」
水トリーのメカニズム解明および絶縁材料の劣化を抑える添加物の探索は、電気工学、化学、物理学の融合領域で、量子化学計算などを用いる高度な研究分野だ。産業界からの注目度も高く、電線メーカーとの共同研究も進められている。
「机上の空論でなく、進行形の社会課題の解決に貢献できるのがこの研究の魅力です。トリーイング劣化のメカニズムを電子レベルで解明して、エネルギー利用の未来を支えたいと思います」