研究報
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関東学院大学_研究ガイド

理工学部 研究ガイド vol.2

新たな確率的評価手法で津波被害を予測する

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INTERVIEW 08 新たな確率的評価手法で津波被害を予測する
fukutani

福谷 陽 YO FUKUTANI

理工学部 土木・都市防災コース 教授

東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程終了。博士(工学)。民間コンサルティング会社、東北大学災害科学国際研究所を経て、現職。「防災・海岸工学」「応用水理学」などの授業を担当。

津波の高さや浸水被害を事前に予測する新たな手法

2011年3月11日——東日本大震災が東北地方を襲い、関東地方に至る太平洋沿岸全域が地震や津波の甚大な被害を受けた。あれから13年。日本各地の研究機関では、地震や津波に関するより踏み込んだ研究が行われている。ここ関東学院大学理工学部でも土木・都市防災コースの福谷陽教授が、津波ハザードに関する先進的な研究に取り組んでいる。
「私は主に津波を発生確率と規模の観点から評価する確率論的津波ハザード評価、およびそれを用いた被害評価、リスク評価に関する研究を行っています。地震動の分野で盛んに議論されてきた確率論的予測の手法を津波の分野に応用するもので、津波の高さや浸水被害を事前に予測する方法のひとつです。これは土木工学の中でも海岸工学と呼ばれる研究分野になります」
福谷教授は、大学院で地球物理学、気象学の研究に取り組み修士号を取得後、損害保険会社で災害リスクの研究に従事。その後、東日本大震災を経て、出向の形で国立大学の研究所で津波ハザード評価の研究をスタートした。世界的な気候変動のリスク評価が問題視される昨今、地球物理学や土木工学の知識が役立つ場面が増えているという。
「自然災害や気候変動は、不確定な要素が多く、研究者の間でも多くの議論があります。また津波をある程度予測できたとしても、どのような防止策を実施するかは、住民や行政とまた別の視点の議論があるでしょう。研究者の立場から理論に基づく提案をしながら、さまざまな意見を反映して、解決策を考えるプロセスがこの研究の難しさであり、面白さだと思います」

地震断層の不確実性を考慮した津波の浸水図

キャンパス近郊の工業地帯の台風被害も研究対象に

福谷教授による確率論的津波ハザード評価の手法は、身近な災害の評価にも応用できる。最近は、横浜・金沢八景キャンパス近隣の横浜市金沢区福浦・幸浦地区が受けた2019年9月の台風15号による浸水被害の調査を実施。企業へのアンケート結果を分析して数値計算モデルを構築する研究にも挑んでいる。
「南海トラフ地震の懸念に加え、気候変動により台風や洪水の被害が増加すると言われています。新たな確率論的津波・高潮ハザード評価の理論を用いて、各地域における沿岸災害リスクの評価手法を確立し、地域社会の具体的な防災対策に役立つような研究をして、貢献できればと考えています」