研究報
Research Expectations

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理工学部 情報学部 研究ガイド2026

自然界に存在する酵母の成分に着目し、免疫力向上やがん治療に役立てる

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中西 秀樹 NAKANISHI Hideki

理工学部 生命科学コース 教授

東京農工大学大学院連合農学研究科生物工学専攻修了。博士(農学)。福島県立医科大学医学部助教、中国・江南大学生物工程学院教授を経て、現職。「生化学I・II」「微生物利用学」などの授業を担当。

「酵母」を利用して免疫力を向上させる

私たちの身のまわりには、無数の微生物が存在している。サルモネラ菌のような食中毒の原因菌もいれば、乳酸菌のように腸内で消化を活性化してくれる菌もいる。また、「酵母」もお役立ち菌として有名だ。学術名は、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)。パンを膨らませたり、アルコール発酵によって日本酒やビールをつくったりする役割を担っている。
生命科学コースの中西秀樹教授は、自然界に存在する酵母が免疫力を高める効果に注目している。
「酵母の細胞壁に含まれるβ-グルカンには、免疫活性化効果があることが確認されています。その効果は、酵母の胞子を使うことでより強化されます。この胞子は、酵母が栄養不足の状態になると生成されるもので、これまであまり注目されてきませんでした。私は酵母の胞子を健康分野や医療分野で応用する研究をしています」
中西教授の研究グループでマウスを使った実験を行ったところ、酵母の胞子を食べさせた個体において、がん細胞の増殖を抑制する効果が確認されたという。これは同じ哺乳類であるヒトへの応用も期待できることを意味している。

休眠する酵母を制御してがん治療などに応用する

通常の胞子(野生型胞子)と休眠状態を維持できない異常な胞子(変異型胞子1~5)

中西教授は、酵母が生成する胞子が持つ特性にも注目している。それは、休眠状態で存在していること。地球上に生きる細胞の多くは、増殖しない休眠状態のまま存在しており、「休眠細胞」と呼ばれている。生命を一時停止した状態で、エネルギー消費を最低限にして、高温などの厳しい環境に耐えているという。
「ストレスに強い休眠細胞は、感染症やがんなどの治療薬が効きづらく、とても厄介な存在です。そこで私は、胞子が休眠状態に入るとき、目覚めるときの仕組みを解明し、医療分野で役立てたいと考えています。具体的には、休眠状態を維持できない胞子の変異株を解析し、休眠を制御する遺伝子の特定を進めています。このメカニズムを解明し、がん細胞に応用できれば、休眠状態のしぶといがん細胞を無理やり目覚めさせ、抗がん剤治療の効果を高めたり、新たな治療法が見つかる可能性もあります。胞子はまだ人類が活用しきれていないユニークな特性をたくさんもっているので、社会実装を目指して研究を続けていきたいと思います」
これまで注目されてこなかった酵母に含まれる胞子から新たなイノベーションが生まれようとしている。