研究報
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特集:日々の生活を支えるインフラ

5.AIが「裁判官」を務めたら、私たちは納得できる? これからの時代、人に求められる能力や学びとは

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INTERVIEW 05 AIが「裁判官」を務めたら、私たちは納得できる?
これからの時代、人に求められる能力や学びとは
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吉川 厚 YOSHIKAWA ATSUSHI

理工学部 教授

学位:工学博士
専門分野:学際情報学、認知科学

AIの判決をどう感じるのか、複数のシナリオで調査

もしもAIが裁判官として判決出したら、私たちはその内容を受け入れられるの
でしょうか――。そんな研究を行ったのが、情報学部の吉川厚教授らです。

驚くべき速さで進化するAI。今後さまざまな領域で、人に代わってAIに業務を任せる動きが増えていくでしょう。そんな中で議論し始めているのが「AI裁判官」の可能性。裁判にかかわる裁判員の確保に労力がかかることや、AIの方が「公平な判断ができるのでは」という意見もあり、AIを活用する可能性が注目されつつあります。

とはいえ、AIが出した判決を人がどう感じるかは難しいところ。AIが裁判官として判断を下すと仮定し、「飢えと貧困から食べ物を盗んだ場合」から「凶悪犯罪を裁く場合」までの複数のシナリオを用いて調査しました。もし自分が裁判を受ける立場だったら、人間の裁判官とAI裁判官のどちらに判断してほしいのかを尋ねたのです。

その結果、AI裁判官への評価は、事件の重さだけで単純に決まるものではないことが見えてきました。人々は、AIなら思い込みや偏見を減らせると期待する一方で、裁判において情状酌量が求められる場面では「温かさ」を、重大な判断の場面では「正統性」を求めます。何をAIに任せたいかは場面によって揺れ動くのです。

なぜこのような傾向が出るのでしょうか。吉川は「人はAI裁判官に対して一律に賛成・反対しているわけではない」と話します。AIへの態度は、その技術そのものへの好き嫌いだけでなく、「どんな場面で使われるか」によって変わるのです。

実はAIに対してバイアスが発生しているかも

AIを活用する上では、そのAIに対して人が抱く感情を考慮することが重要になると吉川は語ります。一例として吉川が紹介するのは、AIのアバターがもたらす「バイアス」です。バイアスとは、人が無意識に抱く思い込みや先入観のこと。

「チャット型のAIをアバターにするケースが増えていますが、実はこのアバターに対してもバイアスが発生する可能性があります」

たとえばコンピューターの投資アドバイザーをアバター化したとして、そのアバターの性別によって相談者が受ける印象の変化を調査した研究がありました。そこでは男性アバターの方が、アドバイスが信頼される傾向にあったとのこと。男女のアバターどちらも中身は同じコンピューターですから、アドバイス内容に差はありません。しかし、アバターによって印象の差が生まれてしまうのです。AIをアバター化する場合も、こうしたバイアスが生まれる可能性があります。

AIが発展した未来の社会で求められる力とは

吉川が専門にしているのは「認知科学」という学問であり、その中でも特に「人がどう学んでいくか」という点を研究してきました。AIを研究の題材に取り入れたのは2020年頃から。背景には「AIが普及すると、人の学びも変わるのではないか」という問題意識がありました。

「社会の状況が変わると、人に求められる能力も変化していきます。たとえばコンピューターが普及したことで、私たちに必要な知識やスキルは大きく変わりました。それにより、学ぶことも変わっていった。同じようにAIが普及すると、人に求められる能力、学ぶべきことも変化します。それを知るためにも、AIやそれが浸透した社会について研究しています」

人の能力には、「認知能力」と「非認知能力」という考えがあります。認知能力とは、読み書きや計算などの能力。今までの学力テストで測定してきたものといえます。一方の非認知能力とは、やる気や他人との協調性などのこと。吉川は今、この非認知能力を測定する仕組みを作れないか、全国の大学の教育学部
の研究者と共同で取り組んでいます。そしてこれも、AI社会を見据えての研究です。

「計算やデータの処理といった『認知能力』は、AIがとても得意とする分野です。これからは、こうした作業をAIに手伝ってもらう場面が増えていくでしょう。だからこそ人間に求められるのは、AIをうまく使いこなしたうえで発揮できる力――たとえば、やる気を持って物事に取り組む、人と協力する、といった『非認知能力』です。ところが、この非認知能力は数値で測るのが難しい。そこで私は、それを測定する仕組みづくりに取り組んでいるのです」

そろばんから電卓、そしてコンピューターの登場。技術が発展する中で、人の仕事や行動も変化してきました。それはつまり「社会で求められる能力が変わった」といえます。AIの登場も同じです。AIが浸透した社会を見据えて、吉川はこれからも研究を続けます。

※本記事は2026年7月に作成したものです。